村上事務所

表示登記と権利登記、どこがどう違う?目的・内容・効力の違いを一覧解説

はじめに。マイホームや土地の「戸籍」と「権利書」、不動産登記のキホンを学んでいきましょう

皆さんが毎日過ごしているお家、または、おじいちゃんやおばあちゃんが持っている畑や山。これらは「不動産(ふどうさん)」と呼ばれる、私たちの生活にとって、とても大切な財産です。ところで、この大切なお家や土地が、「だれのもので、どんな形をしているのか」という情報が、国によってきちんと記録されていることをご存じでしたでしょうか。この記録の仕組みが「不動産登記(ふどうさんとうき)」というものです。

なんだか難しそう、と感じるかもしれませんね。でも、心配はいりません。この記事では、この不動産登記という仕組み、特にその中でも中心となる「表示登記(ひょうじとうき)」と「権利登記(けんりとうき)」という二つの大切な記録について、まるで探偵が謎を解き明かすように、一つひとつ丁寧に、そして分かりやすく解説していきます。

なぜ不動産登記は大切なのでしょうか。私たちの生活との深い関わり

想像してみてください。もし、皆さんの大切にしているおもちゃやゲーム機に名前が書いていなかったらどうなるでしょうか。もしかしたら、他の誰かが間違って自分のものだと言い出したり、誰のものか分からなくなってしまったりするかもしれませんよね。

家や土地といった不動産は、おもちゃやゲーム機よりもずっと高価で、私たちの生活の基盤となるものです。だからこそ、「この土地はAさんのものです」「この家はこんな形をしています」という情報を、国が管理する公の帳簿、これを「登記簿(とうきぼ)」と言いますが、ここにしっかりと記録しておく必要があるのです。これが不動産登記の基本的な考え方です。

不動産登記が担う大切な役割とは

役割 簡単な説明 イメージ
権利の明確化 その不動産が「誰のものか」をハッキリさせます。 持ち物に名前を書くのと同じです。
物理的状況の明確化 その不動産が「どこにあって、どんな形や広さか」を明らかにします。 物の特徴を詳しく説明するカードのようなものです。
取引の安全確保 不動産を買ったり売ったり、お金を借りる際の担保にしたりする時に、相手に正確な情報を提供し、安心して取引できるようにします。 お店で品物を買うときに、値札や説明書きを見て安心するのに似ています。
紛争の予防 権利関係などが明確になることで、無用なトラブルや争いごとを防ぎます。 ゲームのルールがハッキリしていれば、ケンカになりにくいですよね。

このように不動産登記は、私たちの財産を守り、社会のルールを整え、経済活動をスムーズにするために、なくてはならない制度なのです。実際に、不動産登記法という法律の第一条にも、この制度の目的が書かれています。

この記事でわかること。難解な不動産登記もこれで安心!表示登記と権利登記の違いを徹底解説します

さて、この大切な不動産登記ですが、実は大きく分けて二つのパートから成り立っています。それが、この記事のテーマである「表示登記」と「権利登記」です。

この二つは、よく「不動産の戸籍」と「不動産の権利書」に例えられます。どちらも不動産にとっては欠かせないものですが、それぞれ記録する内容や目的、法的な意味合いが異なります。

このブログ記事を読み進めていただければ、

表示登記とは何か 不動産の「見た目」や「プロフィール」に関する記録だと分かります。
権利登記とは何か 不動産の「持ち主」や「設定されている約束事(権利)」に関する記録だと分かります。
二つの登記の具体的な違い 目的、記録内容、法的な力、登記の順番など、様々な角度からスッキリ整理できます。
登記の必要性 「任意」と言われることもある権利登記が、なぜ実質的に必要なのかが理解できます。

まるでパズルのピースを一つひとつはめていくように、これらの知識が組み合わさることで、不動産登記の全体像がきっと見えてくるはずです。専門用語も出てきますが、その都度分かりやすく説明しますので、どうぞご安心ください。

それでは、さっそく不動産登記の奥深い世界へ、一緒に足を踏み入れていきましょう。

第1章 そもそも不動産登記って何?2つの登記「表示登記」と「権利登記」の役割

「はじめに」では、不動産登記が私たちの暮らしにとっていかに大切か、そして、その登記には大きく分けて二つの主役がいることをお話ししましたね。さて、ここからは不動産登記という冒険の地図をもう少し詳しく見ていきましょう。最初の目的地は、その二つの主役、「表示登記(ひょうじとうき)」と「権利登記(けんりとうき)」がそれぞれどんな役割を持っているのか、その正体を探ることです。

1.1 表示登記とは? 不動産の「身分証明書」。どんな建物、どんな土地なのかを記録します

まず、「表示登記」についてご説明します。これは、ひと言でいうと、不動産の「身分証明書」のようなものです。人が持っている身分証明書、例えば運転免許証や健康保険証には、その人の名前、住所、生年月日といった、その人自身を特定するための情報が書かれていますよね。

不動産の表示登記もこれと似ていて、その土地や建物が「どこにあって、どんな見た目で、どれくらいの大きさなのか」といった、物理的な状況、つまり不動産の客観的な事実を記録するものです。この記録は、法務局という役所にある「登記簿(とうきぼ)」の中の、「表題部(ひょうだいぶ)」という専用の場所に記載されます。

表示登記のポイント。不動産のプロフィールを記録

新しい建物が完成した時や、土地の使い方が変わった時などに、まず「このような不動産が、ここに、このような状態で存在しますよ」と公に示すために行われるのが表示登記です。これにより、その不動産が社会的に認知される第一歩となります。

では、具体的にどのような情報が記録されるのでしょうか。土地と建物で少し内容が異なります。

土地の表示登記に記録される主な情報

記録項目 読み方 どんな情報?
所在 しょざい その土地がどの市区町村のどの地域にあるかを示します。 〇〇市△△町
地番 ちばん 土地一つひとつに付けられた番号です。住所とは少し違います。 100番地1
地目 ちもく その土地が主な目的として何に使われているか、種類を示します。 宅地(たくち、家を建てるための土地)、畑(はたけ)、山林(さんりん)など
地積 ちせき その土地の面積です。平方メートル(㎡)で表されます。 200.50㎡

建物の表示登記に記録される主な情報

記録項目 読み方 どんな情報?
所在 しょざい その建物がどの土地の上に建っているかを示します。(土地の地番で表します) 〇〇市△△町100番地1
家屋番号 かおくばんごう 建物一つひとつに付けられた番号です。 100番1
種類 しゅるい その建物が主な目的として何に使われているか、種類を示します。 居宅(きょたく、住むための家)、店舗(てんぽ)、事務所(じむしょ)など
構造 こうぞう その建物がどんな材料で、どんな造りになっているかを示します。 木造かわらぶき2階建(もくぞうかわらぶきにかいだて)など
床面積 ゆかめんせき 各階の床の面積です。平方メートル(㎡)で表されます。 1階 80.00㎡、2階 60.00㎡
原因及びその日付 げんいんおよびそのひづけ 建物が新築された日や、増築された日など、登記の原因となった事実とその日付。 令和〇年〇月〇日新築
例えば、新しいお家を建てた場合…

お家を新しく建てたら、まずこの「表示登記」(正確には「建物表題登記」といいます)を法務局に申請しなければなりません。「ここに、こんな種類の、こんな構造で、これくらいの広さの家が完成しましたよ」と届け出るわけです。これが受理されて初めて、その建物は公に一つの不動産として認められるのです。

1.2 権利登記とは? 不動産の「権利証」。誰がどんな権利を持っているかを記録します

次に、「権利登記」について見ていきましょう。表示登記が不動産の「見た目」や「プロフィール」を記録するものだったのに対し、権利登記は、その不動産に関する「権利」の関係を記録するものです。こちらは、不動産の「権利証」に例えることができます。

「この土地は誰のものなのか(所有権、しょゆうけん)」、「この家を担保にお金を借りている人はいないか(抵当権、ていとうけん)」といった、目には見えないけれど非常に重要な情報を、みんなに分かるように公示(こうじ、広く知らせること)するのが権利登記の役割です。この記録は、登記簿の「権利部(けんりぶ)」という場所に記載され、さらに「甲区(こうく)」と「乙区(おつく)」という二つのセクションに分かれています。

権利登記のポイント。不動産の権利関係を公示

不動産の売買があった時や、不動産を担保にお金を借りた時など、権利に変動があった場合に行われます。「この不動産の持ち主は私です」とか「この不動産には銀行の抵当権が付いています」といった情報を公に示すことで、取引の安全を守る大切な役割があります。

権利部の甲区(こうく)。所有権に関する物語

「甲区」には、その不動産の所有権に関する事項が記録されます。「所有権」とは、その不動産を自分のものとして自由に使ったり、他の人に売ったり、貸したりできる権利のことです。一番基本的な権利ですね。

甲区でわかること 簡単な説明 イメージ
現在の所有者は誰か 今、その不動産を持っている人の住所と氏名が記録されます。 物語の現在の主人公が誰か、という感じです。
いつ、どんな理由で所有者になったか 売買、相続(そうぞく、亡くなった方から財産を受け継ぐこと)、贈与(ぞうよ、無償で譲り受けること)など、所有権を得た原因と日付が記録されます。 主人公がどうやってその立場になったのか、その経緯が書かれています。
過去の所有者は誰だったか 所有者が変わるたびに記録が追加されていくので、過去の所有者の情報も分かります。 物語の歴代の主人公たちの記録です。
所有権に関する制限はあるか 例えば、裁判所から差押え(さしおさえ、借金返済のために強制的に財産処分を制限されること)を受けている場合なども記録されます。 主人公の行動が何かで制限されている状況が記録されます。

権利部の乙区(おつく)。所有権以外の権利のステージ

「乙区」には、所有権以外の権利に関する事項が記録されます。代表的なものは、家を買うために銀行からお金を借りた際に設定される「抵当権」です。

乙区でわかること 簡単な説明 イメージ
抵当権などの担保権 銀行などが、貸したお金を確実に返してもらうために設定する権利です。もし返済が滞った場合、銀行はその不動産を競売にかけるなどしてお金を回収できます。 主人公が誰かにお金を借りる際に、「もし返せなかったら、この宝物(不動産)で代わりにします」という約束をした記録です。
賃借権(ちんしゃくけん)など 土地や建物を借りる権利(賃借権)や、他人の土地を通行できる権利(地役権、ちえきけん)などが記録されることもあります。 主人公以外の登場人物が、その不動産に対して持っている特別な約束事が書かれています。

もし、その不動産に抵当権などの所有権以外の権利が何も設定されていなければ、この乙区は作られないこともあります。その場合は、登記簿に乙区の記載自体がありません。

例えば、お家を買った場合…

AさんがBさんから中古のお家を買ったとします。まず、表示登記でそのお家の形や広さが確認できます。次に、権利登記の甲区を見ることで、BさんからAさんに所有権が移ったこと(売買による所有権移転登記といいます)が記録されます。もしAさんが銀行から住宅ローンを借りてこのお家を買ったなら、乙区には銀行を権利者とする抵当権が設定されたことが記録されるでしょう。

このように、「表示登記」と「権利登記」は、それぞれ異なる役割を担いながら、一つの不動産に関する情報を網羅的に記録しています。表示登記で不動産の「姿かたち」を明らかにし、その上で権利登記によって「誰のものか、どんな権利が付いているか」を明確にする。この二つが揃って初めて、不動産登記はその真価を発揮するのです。

次の章では、この二つの登記が具体的に「何がどう違うのか」という点を、さらに深掘りして比較していきます。

第2章 何が違うの?「表示登記」と「権利登記」5つの視点から徹底比較します!

第1章では、不動産登記の二人の主役、「表示登記」と「権利登記」の基本的な役割、つまり、それぞれが不動産の「身分証明書」と「権利証」のような働きをすることをご紹介しました。この章では、いよいよ両者を並べて、まるで虫めがねで観察するように、その違いを5つの大切なポイントからじっくりと見ていきましょう。この比較を通じて、それぞれの登記が持つ個性や重要性が、よりハッキリと見えてくるはずです。

2.1 【目的】何のために登記するのでしょうか?

まず、それぞれの登記が「何のために」行われるのか、その根本的な目的の違いから見ていきましょう。

表示登記の目的。不動産の物理的な「今」を正確に記録します

表示登記の主な目的は、不動産の物理的な状況を、ありのままに正確に記録し、これを誰にでも分かるように示すことです。例えば、新しくお家を建てた(新築した)場合、「ここに、こういう種類の、こういう構造で、これくらいの広さの建物が実際に存在しますよ」という事実を、公の帳簿である登記簿に登録します。土地の場合も同様で、土地の用途(地目、ちもく)が変わったり、一つの土地を二つに分けたり(分筆、ぶんぴつ)した場合に、その現在の状況を正確に反映させるのが表示登記の役割です。

言ってみれば、表示登記は、不動産の「いま現在のプロフィール」を最新の状態に保つための手続きだと言えます。

表示登記の目的を一言でいうと 具体的な例
不動産の「かたち」や「スペック」を公に示すこと。 建物が新築された時、増築や一部取り壊しがあった時、土地の利用目的が変わった時など。
権利登記の目的。その不動産に関する「誰のどんな権利か」を公に示します

一方、権利登記の主な目的は、その不動産に関する権利関係、つまり「誰が所有者なのか」「誰かにお金を貸した担保(たんぽ)になっているか」といった情報を記録し、これを社会に広く公示(こうじ、お知らせすること)することです。

例えば、AさんがBさんから土地を買った場合、その土地の所有者がBさんからAさんに変わったことを権利登記によって記録します。これにより、Aさんは「この土地は法的に私のものです」と他の誰に対しても主張できるようになります。また、銀行がお金を貸す際に不動産を担保に取る場合(抵当権設定、ていとうけんせってい)、その事実も権利登記に記録され、誰でもその情報を確認できるようになります。このようにして、不動産取引の安全と円滑が図られているのです。

権利登記の目的を一言でいうと 具体的な例
不動産の「権利のありか」や「約束事」を公に示すこと。 不動産を売買した時、相続した時、お金を借りるために不動産を担保に入れた時など。

2.2 【記録される場所と内容】登記簿のどこに何が書いてあるのでしょうか?

第1章でも少し触れましたが、表示登記と権利登記では、情報が記録される登記簿の場所と、記録される内容が異なります。

表示登記の記録場所と内容。「表題部」に不動産のスペック情報

表示登記に関する情報は、登記簿の「表題部(ひょうだいぶ)」という部分に記録されます。ここは、まさに不動産の「自己紹介ページ」のようなもので、その不動産の基本的なプロフィールが記載されています。

記録場所 主な記録内容(第1章の復習です)
登記簿の「表題部」 土地の場合。所在、地番、地目、地積など。
建物の場合。所在、家屋番号、種類、構造、床面積、新築年月日など。

これらの情報は、その不動産が物理的にどのようなものであるかを特定するための基礎となります。

権利登記の記録場所と内容。「権利部」に権利に関する情報

権利登記に関する情報は、登記簿の「権利部(けんりぶ)」という部分に記録されます。権利部はさらに「甲区(こうく)」と「乙区(おつく)」に分かれています。

記録場所 主な記録内容(第1章の復習です)
登記簿の権利部「甲区」 所有権に関する事項。現在の所有者は誰か、いつ、どんな理由で所有者になったか、など。
登記簿の権利部「乙区」 所有権以外の権利に関する事項。抵当権(お金を借りた際の担保)、賃借権(建物を借りる権利)など。

甲区を見れば「誰が持ち主か」という物語が、乙区を見れば「持ち主以外にどんな権利や約束事が付いているか」という追加情報が分かる、というイメージです。

2.3 【法的な意味合い】登記するとどんな効果があるのでしょうか?

登記をすることによって、法律上どのような効果が得られるのか、これも大きな違いがあります。

表示登記の法的な意味合い。その不動産を特定します!「この建物、この土地のことですよ」

表示登記の主な法的な機能は、その不動産を物理的に特定することにあります。登記簿の表題部に記載された情報(所在地、面積、建物の種類など)によって、数ある不動産の中から「まさにこの不動産について話していますよ」と明確に指し示すことができるのです。これは、あらゆる不動産取引や権利関係の議論の出発点となります。

例えば、お友達と「あの赤い屋根の可愛いお家」という話をしても、世の中には似たような家がたくさんあるかもしれません。でも、表示登記があれば、「〇〇町1番地にある、木造2階建て、床面積△△㎡の居宅」というように、世界でただ一つのものとして特定できるのです。

権利登記の法的な意味合い。自分の権利を第三者にも主張できます!「対抗要件」の獲得

権利登記の最も重要な法的な機能は、「対抗要件(たいこうようけん)」を備えることです。「対抗要件」とは、少し難しい言葉ですが、簡単に言うと、その不動産に関する自分の権利を、当事者以外の第三者(他の人)に対しても「これは私の正当な権利です!」と法的に主張できる力のことです。

「対抗要件」ってなあに?

例えば、あなたがAさんから家を買ったとします。あなたとAさんの間では売買契約を結んだ時点で、あなたは家の所有者になったと考えられます。しかし、もしAさんが同じ家を、あなたに売った後で、さらにBさんにも売ってしまったらどうなるでしょうか(これを二重譲渡、にじゅうじょうと、といいます)。

この場合、あなたがいくら「先に買ったのは私だ!」と主張しても、もしBさんが先に所有権の登記(権利登記)を済ませてしまったら、法律上はBさんが有効な所有者として扱われてしまう可能性が高いのです。なぜなら、不動産の権利変動(持ち主が変わることなど)は、登記をしなければ第三者に対抗できないと法律で決められているからです。この「第三者に対抗できる力」が対抗要件です。

つまり、権利登記をしておくことで、後から現れた他の権利主張者に対して「この不動産の権利は私にあります」と正々堂々と言えるようになる、ということです。お守りのようなものですね。

2.4 【登記の順番】切っても切れない!表示登記は権利登記の「大前提」です

表示登記と権利登記には、手続きを進める上での順番にも明確なルールがあります。

表示登記がなければ始まらない!新築物件の登記の流れで理解しましょう

結論から言うと、表示登記は権利登記を行うための大前提、つまり基礎となります。有効な表示登記が存在しない不動産については、原則として権利登記(所有権の登記や抵当権設定の登記など)を申請することができません。

お家を建てる時のことを想像してみてください。まず、土地の上にしっかりとした土台(基礎)を作ってから、柱を立て、壁を作り、屋根を葺いて家が完成しますよね。不動産登記もこれと似ていて、

ステップ1。建物の完成
まず、建物が物理的に完成します。
ステップ2。建物の表示登記(建物表題登記、たてものひょうだいとうき)
次に、完成した建物の「身分証明書」を作るために、建物の物理的な状況(種類、構造、床面積など)を登記します。これが表示登記です。これで初めて、その建物が法的に一つの不動産として認められます。
ステップ3。所有権の権利登記(所有権保存登記、しょゆうけんほぞんとうき)
そして、表示登記が完了して初めて、「この新しい建物の最初の所有者は私です」という権利の登記(所有権保存登記)を申請できるようになります。
ステップ4。(必要に応じて)その他の権利登記
住宅ローンを組んでいれば、この後、銀行の抵当権設定登記などが続きます。

このように、表示登記という「土台」があって初めて、その上に権利登記という「建物」を建てることができるのです。表示登記は、まさに権利の「器(うつわ)」を作る役割を担っていると言えるでしょう。

2.5 【申請義務と期限、罰則】登記はいつまでに、必ずしないといけないのでしょうか?

登記を申請する義務があるのか、もしあるならいつまでに行う必要があるのか、そして怠った場合のペナルティはあるのか。この点も、表示登記と権利登記で大きく異なります。

表示登記。変更があったら原則1ヶ月以内(義務あり、怠ると過料の可能性も)

表示登記については、不動産の物理的な状況に変化が生じた場合、その所有者に対して申請義務が課されています

ケース 申請義務者 申請期限 法的根拠(主なもの)
建物を新築した 所有者 所有権を取得した日から1ヶ月以内 不動産登記法 第47条第1項
建物が滅失した(取り壊した、焼失したなど) 表題部所有者または所有権の登記名義人 滅失の日から1ヶ月以内 不動産登記法 第51条第1項
土地の地目や地積に変更があった 表題部所有者または所有権の登記名義人 変更があった日から1ヶ月以内 不動産登記法 第37条第1項

これらの申請を正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料(かりょう)に処せられる可能性があります(不動産登記法 第164条)。過料とは、行政上の秩序を維持するために科される、罰金に似た金銭的な負担のことです。実際にすぐに過料が科されることは稀かもしれませんが、法律で定められた義務であることは覚えておきましょう。

権利登記。以前は「任意」だったけど…?注意!相続登記・住所変更登記は義務化へ

権利登記については、その多くが「任意」、つまり申請するかどうかは当事者の自由に委ねられていました。なぜなら、権利登記の主な効果は「対抗要件」を得ることであり、自分の権利を守りたい人が自主的に行うもの、という考え方が基本にあったからです。例えば、不動産を売買した際の所有権移転登記や、お金を借りた際の抵当権設定登記には、原則として法律上の申請義務や期限の定め、罰則はありませんでした(ただし、契約で登記手続きを義務付けることはあります)。

しかし、この「任意」という考え方が、近年、社会問題となっている「所有者不明土地」の一因と指摘されるようになりました。そこで、この問題を解決するために、一部の権利登記について申請が義務化されることになりました。

権利登記の義務化。これは知っておきましょう!

1. 相続登記の義務化

  • 内容。不動産を相続した人は、相続の開始及び所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。
  • 施行日。2024年(令和6年)4月1日から施行されています。
  • 罰則。正当な理由なく申請を怠った場合、10万円以下の過料の対象となります。
  • 法的根拠。不動産登記法 第76条の2、第164条の2。

2. 住所等変更登記の義務化

  • 内容。不動産の登記名義人(所有者など)の氏名や名称、住所に変更があった場合、その変更日から2年以内に申請しなければなりません。
  • 施行日。2026年(令和8年)4月までに施行される予定です。
  • 罰則。正当な理由なく申請を怠った場合、5万円以下の過料の対象となります。
  • 法的根拠。改正不動産登記法 第76条の5、第164条の3。

これらの義務化は、登記簿の情報を最新かつ正確なものに保ち、不動産取引をより円滑にし、所有者不明土地問題を減らすことを目的としています。

このように、権利登記も一部については明確な申請義務と罰則が設けられる方向に変わってきていることを理解しておくことが大切です。

さて、ここまで5つの視点から「表示登記」と「権利登記」の違いを比較してきました。目的、記録内容、法的な意味合い、登記の順番、そして申請義務。それぞれの違いが、少しずつクリアになってきたのではないでしょうか。これらの知識は、不動産に関わる上で非常に重要な基礎となります。

第3章 「権利登記は任意」ってホント?知っておくべき実質的な必要性

前の章では、表示登記と権利登記の5つの大きな違いを見てきましたね。特に権利登記については、「任意」という言葉と、最近の「義務化」の流れがあることを学びました。では、相続登記や住所変更登記のように法律で義務化されていない権利登記、例えば不動産を売買したときの所有権移転登記などは、本当に「やらなくても大丈夫」なのでしょうか。この章では、その「任意」という言葉の裏に隠された大切なポイントと、権利登記が実質的になぜ必要なのかを、一緒に考えていきましょう。

3.1 「任意」の言葉に隠された注意点。登記しないことのリスクとは何でしょうか?

権利登記の多くは、法律で「必ず申請しなければならない」と強制されているわけではなく、申請しなかった場合の罰則も基本的にはありません(相続登記などが義務化されたのは最近の動きです)。この点を指して「任意」と言われることがあります。しかし、この「任意」という言葉を、「登記しなくても何の不利益もない」と解釈してしまうのは大きな間違いです。

権利登記をしないことの最大のリスクは、前の章でも少し触れましたが、自分の権利を第三者に対して主張できなくなる可能性があるということです。これを「対抗力(たいこうりょく)がない」状態と言います。

本当にあった怖い話?二重譲渡(にじゅうじょうと)のワナ

例えば、あなたがAさんから夢のマイホームを買う契約を結び、代金も全額支払ったとしましょう。これで一安心、とその家は自分のものだと思っていますよね。しかし、もしあなたが所有権移転の登記をしないでいる間に、悪意のあるAさんが同じ家を、今度はCさんにも売ってしまったらどうなるでしょうか。

そして、もしCさんがあなたよりも先に所有権移転の登記を済ませてしまった場合、法律上、その家の所有権はCさんのものと認められてしまう可能性が非常に高くなります。あなたが「私が先に契約してお金を払ったんだ!」といくら叫んでも、登記という公の証明がない限り、後から現れたCさんに「この家は登記した私のものです」と主張されてしまうのです。これが、民法第177条が定める「登記がなければ第三者に対抗できない」というルールの厳しい現実です。

お金を払ったのに家を失うなんて、考えただけでも恐ろしいですよね。これは極端な例かもしれませんが、実際に起こりうるトラブルなのです。

二重譲渡以外にも、権利登記を怠ることで様々なリスクが生じます。

権利登記をしないことで起こりうる主なリスク

リスクの種類 具体的な内容 イメージ
第三者への対抗力がない 上記の二重譲渡のほか、売主の借金のために不動産が差し押さえられた場合、登記がなければ自分の所有権を主張できないことがあります。 「この土地は僕のだ!」と言っても、登記簿という公式ルールブックに名前が載っていなければ、他の人に認めてもらえない感じです。
不動産を担保にできない 将来、その不動産を担保にお金を借りようとしても、自分が所有者であるという登記がなければ、金融機関は抵当権を設定できず、融資を受けられない可能性が高いです。 銀行に「このお家を担保にお金を貸してください」と言っても、そのお家が本当にあなたのものか証明できなければ、貸してくれませんよね。
将来の売却や相続が困難になる いざ不動産を売ろうとしたり、相続が発生したりした時に、登記が実態と合っていないと、手続きが非常に複雑になったり、余計な費用や時間がかかったりします。 持ち主の名前が昔の人のままの宝箱を、売ったり譲ったりするのは大変ですよね。
詐欺などの犯罪に巻き込まれる可能性 登記簿上の所有者と実際の所有者が異なっている状態は、悪意のある第三者につけこまれる隙を与えることにもなりかねません。 名札のついていない高価なものが置きっぱなしになっているようなもので、危険です。

このように、「任意」だからといって権利登記を軽視すると、思わぬ不利益を被る可能性があるのです。自分の大切な財産を守るためには、権利登記が非常に重要な役割を果たすことを、まずしっかりと理解しておきましょう。

3.2 不動産の売買やローン利用時には事実上「必須」の手続きです

法律上の申請義務がない権利登記であっても、実際の不動産取引の場面では、事実上「必須」の手続きとなっているケースがほとんどです。これはなぜでしょうか。

買主の立場から。確実に自分のものにするために

あなたが不動産を買う立場だったら、どうでしょうか。高いお金を払って家や土地を買うのですから、「間違いなく自分のものになった」という確証が欲しいですよね。その最も確実な方法が、所有権移転登記です。登記をすることで、先ほど説明した「対抗力」を得て、誰に対しても「この不動産は私のものです」と主張できるようになります。ですから、ほとんどの買主は、売買代金の支払いと同時に、確実に所有権移転登記が行われることを強く望みますし、不動産取引の契約書にも、売主が登記手続きに協力する義務が明記されるのが一般的です。

売主の立場から。責任を明確にするために

逆に、あなたが不動産を売る立場だったらどうでしょうか。代金を受け取ったら、買主に所有権が移ったことを公にしたいですよね。いつまでも登記簿上の名義が自分のままでは、固定資産税の請求が自分に来続けたり、万が一その不動産で何か問題が起きた場合に責任を問われたりするリスクもゼロではありません。そのため、売主も買主への登記移転を確実に行いたいと考えるのが普通です。

金融機関(ローン)の立場から。貸したお金を保全するために

そして、特に重要なのが、住宅ローンなどでお金を借りて不動産を購入する場合です。銀行などの金融機関は、大きなお金を貸すにあたって、万が一返済が滞った場合に備えて、購入する不動産に「抵当権(ていとうけん)」という担保権を設定します。この抵当権も権利登記の一種です。

金融機関にとって、この抵当権は貸したお金を回収するための命綱です。そのため、融資を実行する絶対条件として、買主への所有権移転登記と同時に、金融機関を権利者とする抵当権設定登記を確実に行うことを求めます。もし登記ができなければ、金融機関は安心して融資を実行できません。

つまり、ローンを利用して不動産を手に入れる場合、権利登記(所有権移転登記と抵当権設定登記)は、避けては通れない「必須」の手続きとなるのです。「登記は任意だからしません」という選択肢は、現実的にはありえません。

このように、法律で「必ずやりなさい」とまでは言われていない権利登記であっても、

取引の安全のため 買主も売主も、安心して取引を完了させるために登記を必要とします。
権利を確実にするため 自分の権利を第三者に対してもしっかりと主張できるようにするために登記が必要です。
金融取引上の要請のため ローンを利用する場合には、金融機関が担保権を確保するために登記を必須とします。

といった理由から、不動産取引の現場では、権利登記は実質的に不可欠な手続きとして扱われているのです。「任意」という言葉の響きに惑わされず、その実質的な必要性を理解しておくことが、不動産と賢く付き合うための第一歩と言えるでしょう。

第4章 頼れる専門家!表示登記は「土地家屋調査士」、権利登記は「司法書士」

これまでの章で、表示登記と権利登記の違いや、特に権利登記の重要性についてご理解いただけたかと思います。不動産登記は私たちの財産を守る大切な手続きですが、専門的な知識や正確な測量が必要になることも多く、自分一人で行うのはなかなか大変ですよね。でも、ご安心ください。不動産登記には、それぞれの分野で頼りになる専門家がいます。この章では、不動産登記の強力なサポーターである「土地家屋調査士(とちかおくちょうさし)」と「司法書士(しほうしょし)」について、それぞれの役割分担を詳しくご紹介します。

4.1 土地家屋調査士。不動産の「カタチ」を測り、記録する専門家です

まずご紹介するのは、土地家屋調査士です。土地家屋調査士は、主に不動産の物理的な状況、つまり「見た目」や「カタチ」に関する調査や測量を行い、それを基に表示に関する登記(表示登記)の申請手続きを私たちの代わりに行ってくれる専門家です。

例えば、こんな場面で活躍します。

土地家屋調査士が活躍する主な場面 具体的なお仕事内容のイメージ
新しいお家を建てた時(建物の表題登記) 完成した建物がどこにあって、どんな種類(居宅、店舗など)で、どんな構造(木造、鉄骨造など)で、どれくらいの広さ(床面積)なのかを正確に測量し、法務局に「こういう建物ができました」と登録します。
土地を分けたい時(土地の分筆登記、ぶんぴつとうき) 一つの土地を、例えば兄弟で分けるために二つ以上に分けたい場合、正確に測量して新しい境界線を決め、それぞれの土地の情報を登記します。
土地の使い方が変わった時(土地の地目変更登記、ちもくへんこうとうき) 今まで畑だった土地に家を建てることになり、「畑」から「宅地(たくち、建物を建てるための土地)」に土地の種類(地目)が変わった場合、その変更を登記します。
お隣との土地の境界線が分からない時(境界確定測量、きょうかいかくていそくりょう) お隣の土地との境界が曖昧で心配な場合、法務局の資料や現地の状況を調査・測量し、法的に正しい境界線を明らかにします。

土地家屋調査士は、専用の測量機械や専門知識を駆使して、ミリ単位の精度で不動産の状況を把握します。まさに、不動産の「測量のプロフェッショナル」であり、「表示登記の専門家」と言えるでしょう。お家や土地の「プロフィール」を正確に作成し、管理してくれる頼もしい存在です。

4.2 司法書士。不動産の「権利」を守り、記録する専門家です

次にご紹介するのは、司法書士です。司法書士は、主に不動産の権利に関する登記(権利登記)の申請手続きを私たちの代わりに行ってくれる専門家です。また、登記に必要な契約書や議事録などの書類作成、そしてそれらに関する法律的な相談にも乗ってくれます。

こんな場面で司法書士の力が必要になります。

司法書士が活躍する主な場面 具体的なお仕事内容のイメージ
不動産を買ったり売ったりした時(所有権移転登記) 売主さんから買主さんへ不動産の持ち主が変わったことを、法務局に「持ち主が変わりました」と登録します。売買契約書などもチェックしてくれます。
不動産を相続した時(相続による所有権移転登記) 亡くなった方から不動産を受け継いだ場合、相続関係を証明する戸籍謄本などを集め、新しい持ち主として自分の名前を登録します。2024年4月から義務化された相続登記も、司法書士がサポートしてくれます。
住宅ローンを組んだ時(抵当権設定登記、ていとうけんせっていとうき) 銀行などからお金を借りて不動産を買う場合、その不動産を担保に入れる契約(抵当権設定契約)を結びますが、その約束を法務局に登録します。
住宅ローンを返し終わった時(抵当権抹消登記、ていとうけんまっしょうとうき) 住宅ローンを全額返済したら、担保として設定されていた抵当権を消すための手続きをします。
引っ越しや結婚で住所・氏名が変わった時(登記名義人住所・氏名変更登記) 登記簿に記録されている所有者の住所や氏名が変わった場合に、その変更を登録します。これも将来的に義務化される登記です。

司法書士は、複雑な法律関係や権利関係を整理し、間違いのないように登記申請を行ってくれます。不動産の「権利の専門家」であり、「暮らしの手続きの法律家」として、私たちの権利を守ってくれる存在です。ちなみに、司法書士は不動産登記だけでなく、会社設立の登記(商業登記)や、成年後見(判断能力が不十分な方を支援する制度)、遺言作成のサポートなど、幅広い分野で活躍しています。

4.3 二人の専門家の違いと協力関係。まるでリレーの選手のように

ここまでで、土地家屋調査士と司法書士のそれぞれの専門分野がお分かりいただけたかと思います。ここで、改めて二人の専門家の違いを整理してみましょう。

比較ポイント 土地家屋調査士 司法書士
主な担当登記 表示に関する登記(不動産の物理的状況) 権利に関する登記(不動産の権利関係)
主な仕事内容 不動産の調査・測量、図面作成、表示登記の申請代理 権利変動に関する書類作成、権利登記の申請代理、法律相談
得意分野のキーワード 「測量」「図面」「境界」「物理的現況」 「権利」「契約」「相続」「法律関係」
資格の根拠法 土地家屋調査士法 司法書士法

このように、土地家屋調査士は不動産の「ガワ(外側・物理的な部分)」を、司法書士は不動産の「ナカミ(内側・権利的な部分)」を主に担当するとイメージすると分かりやすいかもしれません。

新築住宅購入時の連携プレー

例えば、新しく建てられたお家(建売住宅など)を買う場合を考えてみましょう。

1. まず、建物が完成すると、土地家屋調査士がその建物の表示登記(建物表題登記)を行います。これで、建物が法的に存在するものとして登記簿に登録されます。

2. 次に、その新しい建物の最初の所有者(多くは建築した会社など)の名前で所有権保存登記が(通常は司法書士によって)なされます。

3. そして、あなたがそのお家を買うと、売主(会社など)からあなたへ所有権を移すための所有権移転登記を司法書士が申請します。もし住宅ローンを組むなら、同時に抵当権設定登記も行います。

不動産登記は、時に複雑で専門的な知識が求められます。しかし、今回ご紹介した土地家屋調査士や司法書士のような頼れる専門家がいることを知っていれば、安心して手続きに臨むことができますね。何か登記に関する困りごとや疑問点があれば、まずはこれらの専門家に相談してみるのが良いでしょう。

第5章 一目でわかる!表示登記と権利登記の比較まとめ

これまでの長い道のり、本当にお疲れ様でした。不動産登記の基本的な仕組みから始まり、私たちの「不動産の身分証明書」である「表示登記」と、「不動産の権利証」とも言える「権利登記」について、その役割や具体的な違い、さらには頼りになる専門家の方々まで、一緒に学んできましたね。

この最終章では、これまで冒険して集めてきたたくさんの知識を、ギュッと凝縮して「比較表」という形にまとめてみました。この表を見れば、二つの登記の重要な違いが一目で分かり、これまでの学びがよりスッキリと整理できるはずです。さあ、最後の仕上げに取り掛かりましょう!

表示登記と権利登記 こうして比べるとよく分かる!重要ポイント比較表

それでは、早速ですが、表示登記と権利登記の主な違いをまとめた比較表をご覧ください。これまでの章で詳しく説明してきた内容が、どのように整理されているか確認してみてくださいね。

比べるポイント 表示登記(表示に関する登記) 権利登記(権利に関する登記)
なんのためにするの?(主な目的) 不動産の物理的な今の状況(どこにあって、どんな形で、どれくらいの広さかなど)をハッキリと記録し、みんなに知らせるためです。
(第2章 2.1参照)
その不動産に関する法的な権利関係(誰が持ち主か、誰かが担保に取っているかなど)をハッキリと記録し、みんなに知らせるためです。
(第2章 2.1参照)
どこに書かれるの?(登記記録上の記載箇所) 登記簿の「表題部」という、不動産のプロフィールが書かれる場所に記録されます。
(第1章 1.1、第2章 2.2参照)
登記簿の「権利部」という、権利の物語が書かれる場所に記録されます。権利部はさらに「甲区」と「乙区」に分かれます。
(第1章 1.2、第2章 2.2参照)
どんなことが書かれるの?(主な記録情報) 土地なら、所在地、地番、地目(土地の種類)、地積(面積)など。
建物なら、所在地、家屋番号、種類、構造、床面積、新築年月日など、不動産のスペック情報です。
(第1章 1.1参照)
権利部の「甲区」には、所有者は誰か、いつ・なぜ所有者になったかなど、所有権に関する情報
権利部の「乙区」には、抵当権(借金の担保)や賃借権(借りる権利)など、所有権以外の権利に関する情報です。
(第1章 1.2参照)
やらなきゃダメ?(法的申請義務) 不動産の物理的な状況に変化があった場合(例。建物を新築した、土地の地目を変更した)、原則として申請義務があります
(第2章 2.5参照)
以前は原則として「任意」でしたが、相続登記(2024年4月1日~)と住所等変更登記(2026年4月までに施行予定)は義務化されました。それ以外の多くは今も任意ですが、実質的な必要性は高いです。
(第2章 2.5、第3章参照)
いつまでにするの?(申請期限) 建物の新築や滅失、土地の地目変更など、理由が発生した時から原則1ヶ月以内です。
(不動産登記法 第36条、第37条、第47条、第51条など)
義務化された登記には期限があります。
・相続登記。相続開始及び所有権取得を知った日から3年以内
・住所等変更登記。変更日から2年以内(予定)。
それ以外の任意な登記には、法律上の明確な期限はありません。(第2章 2.5参照)
やらないとどうなる?(罰則) 正当な理由なく申請義務を怠ると、10万円以下の過料(行政上のペナルティ)に処せられることがあります。
(不動産登記法 第164条)
義務化された登記を正当な理由なく怠ると過料があります。
・相続登記。10万円以下。
・住所等変更登記。5万円以下(予定)。
任意な登記には、直接的な罰則はありませんが、登記しないことによるリスク(対抗力がないなど)が大きいです。(第2章 2.5、第3章参照)
だれにお願いするの?(主な担当専門家) 不動産の測量や物理的な状況の調査、表示登記の申請代理は、土地家屋調査士さんです。
(第4章 4.1参照)
権利関係の整理、権利登記の申請代理は、司法書士さんです。
(第4章 4.2参照)
どんなパワーがあるの?(主な法的効果) その不動産が「これですよ!」と特定できるようになります。権利登記の前提となります。
(第2章 2.3、2.4参照)
自分の権利を他の誰に対しても「これは私の権利だ!」と主張できる力(対抗要件)を得られます。取引の安全に不可欠です。
(民法第177条、第2章 2.3参照)

比較して見えてくる、それぞれの個性と大切な役割

どうでしたでしょうか。こうして一つの表に並べてみると、表示登記と権利登記が、それぞれ全く異なる目的と役割を持っていることが、より一層ハッキリとご理解いただけたのではないかと思います。

例えるなら、表示登記は「舞台そのものを作る作業」です。どんな形の舞台(不動産)で、どこにあって、どれくらいの広さなのかを明確にするんですね。そして、権利登記は、その舞台の上で繰り広げられる「権利という名のドラマの配役やストーリーを記録する作業」と言えるかもしれません。「主人公(所有者)は誰なのか」「他にどんな登場人物(抵当権者など)がいて、どんな約束事をしているのか」を明らかにするのです。

第2章でもお話ししましたが、特に権利登記が持つ「対抗要件」という力は、私たちの財産である不動産を守る上で非常に重要です。法律上の申請義務がない登記であっても、第3章で見たように、実際には不動産取引を安全に行うために、また、予期せぬトラブルから自分の権利を守るために、事実上不可欠な手続きとなっているケースがほとんどです。

そして、これらの複雑で大切な手続きをサポートしてくれるのが、第4章でご紹介した土地家屋調査士と司法書士という頼れる専門家の方々でしたね。

このブログ記事を通じて、「不動産登記」という少し難しそうなテーマが、皆さんにとって少しでも身近で、そしてその大切さが理解できるものになっていれば、これほど嬉しいことはありません。

不動産は私たちの生活の基盤であり、大切な財産です。その権利と現況を正確に記録する不動産登記制度について正しい知識を持つことは、きっと皆さんのこれからの暮らしに役立つはずです。最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

おわりに。表示登記と権利登記の違いを理解して、安心で安全な不動産との関わりを

このブログを最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。私たちの身近にありながら、少し複雑で専門的に感じられる「不動産登記」の世界、特にその中でも中心的な役割を担う「表示登記」と「権利登記」の違いについて、できるだけ分かりやすく、そして興味を持っていただけるようにお伝えしようと努めてまいりました。

長い冒険の旅路でしたが、皆さんと一緒にたくさんの大切な知識という宝物を見つけることができたように思います。最後に、このブログを通じて私たちが一緒に学んできた重要なポイントを振り返りながら、不動産登記の知識を持つことの真の価値について、改めて考えてみたいと思います。

今回の学びの宝箱。大切なポイントをもう一度振り返りましょう

このブログでは、不動産登記の基本から、二つの重要な登記の違い、そして私たちを助けてくれる専門家の方々まで、様々な角度から光を当ててきました。特に心に留めていただきたいのは、次のような点です。

学んだキーポイント そのエッセンスは?
不動産登記の役割 私たちの家や土地といった大切な不動産の「戸籍」であり「権利書」のようなもの。社会の信頼の基盤です。(はじめに、第1章参照)
表示登記とは何か 不動産の「身分証明書」や「プロフィールブック」。どこにあって、どんな形や大きさなのか、物理的な今の姿を正確に記録します。(第1章、第2章参照)
権利登記とは何か 不動産の「権利の物語」を記録するもの。誰が持ち主で、どんな約束事が付いているのかを明らかにし、特に「対抗要件」という強い力を与えてくれます。(第1章、第2章参照)
二つの登記の大きな違い 目的(物の特定 vs 権利の公示)、記録場所(表題部 vs 権利部)、法的効果(特定機能 vs 対抗力)、申請義務の有無など、多くの点で異なる個性を持っています。(第2章、第5章参照)
権利登記の「任意」と「実質的必要性」 法律上の義務がないものでも、自分の権利を守り、安全な取引のためには事実上「必須」。登記を怠るリスクは大きいです。(第3章参照)
頼れる専門家の存在 表示登記は「土地家屋調査士」、権利登記は「司法書士」という、それぞれの分野のプロフェッショナルがいます。(第4章参照)

これらのポイントは、まるで暗い森を歩くときの地図やコンパスのように、皆さんが不動産と関わる上で、道に迷わないための大切な道しるべとなるはずです。

不動産登記の知識を持つこと、その本当の重要性とは何でしょうか

では、なぜこれほどまでに不動産登記の知識が大切なのでしょうか。それは、単に「テストで良い点を取るため」や「物知りになるため」ではありません。もっと実生活に根差した、切実な理由があるのです。

自分の大切な財産を、自分の力で守るために

不動産は、多くの人にとって人生で最も高価な買い物の一つであり、生活の基盤となるかけがえのない財産です。不動産登記の知識は、この大切な財産を、悪意のある第三者や予期せぬトラブルから守るための「盾」となり、「武器」となります。例えば、権利登記によって「対抗要件」を備えることの重要性を知っていれば、二重譲渡のような被害に遭うリスクを格段に減らすことができるでしょう。

安心して、そして賢く不動産取引を行うために

家を買う時、売る時、あるいは相続する時、お金を借りるために担保に入れる時。人生において不動産取引に関わる機会は少なくありません。登記の知識があれば、取引の相手方や不動産業者、金融機関が話している内容をより深く理解でき、不利な契約を結んでしまったり、必要な手続きを見落としたりすることを防げます。まさに、取引というゲームの「ルール」を知っているプレイヤーのように、冷静に、そして賢く立ち回ることができるのです。

将来の自分や家族のために、スムーズな準備をするために

例えば、相続登記が義務化された背景には、所有者が分からなくなってしまった土地が増え、社会問題化しているという現実があります。自分自身が適切な登記をしておくことは、将来、自分の子供や孫たちが困らないようにするための、大切な準備とも言えます。また、いざという時に不動産を売却して資金を得ようとしても、登記がきちんとされていなければ、手続きに手間取り、好機を逃してしまうかもしれません。

頼れる専門家と、より良いコミュニケーションを取るために

不動産登記の手続きは複雑で、多くの場合、土地家屋調査士や司法書士といった専門家の助けが必要になります。しかし、私たちが登記に関する基本的な知識を持っていれば、専門家の方々に何を相談すればよいのかが明確になり、説明も理解しやすくなります。その結果、よりスムーズに、そして納得のいく形で手続きを進めることができるでしょう。

不動産登記の知識は、決して一部の専門家だけのものではありません。それは、現代社会で自分らしく、そして安心して生きていくために、私たち一人ひとりが持っておきたい「生活の知恵」なのです。

このブログ記事が、皆さんと不動産登記との距離を少しでも縮め、その大切さや面白さを感じていただくための一助となれたのであれば、望外の喜びです。

不動産の世界は奥深く、学び続けることで新たな発見がきっとあります。今回の知識をきっかけに、皆さんのこれからの暮らしが、不動産とのより良い関係によって、さらに豊かで安心なものとなることを心から願っております。

最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。

NOTE

業務ノート

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