
【超入門】不動産の「表示登記」ってなあに?土地と建物の大切なキホンを学ぼう
第1章 はじめに 不動産登記って何?なぜ大切なの?
こんにちは。これから皆さんと一緒に、少しむずかしそうに聞こえるかもしれない「表示登記」というものについて、探検していきたいと思います。「不動産」つまり、お家や土地のことについて、とても大切な仕組みなんですよ。
お家や土地にも「プロフィール帳」があるってホント?
皆さんは、ご自身の名前や誕生日、どこに住んでいるかなどを証明するものとして、例えば住民票やマイナンバーカードがありますよね。これらは「あなたが誰で、どんな人か」を公的に示してくれる大切な書類です。
実は、私たちが住んでいるお家や、持っている土地といった「不動産」にも、これと似たような仕組みがあるんです。それが「登記」と呼ばれるもので、不動産に関する情報を国が管理する帳簿に記録することをいいます。そして、その中でも特に、不動産の「見た目」や「物理的な情報」を記録するのが「表示登記」です。
考えてみよう。なぜ記録が必要なの?
例えば、皆さんが新しいおもちゃを手に入れたと想像してみてください。そのおもちゃがどんな形をしていて、どんな色で、どれくらいの大きさなのか、詳しく説明できますよね。もし、そのおもちゃがとても高価で大切なものだったら、他の人にも「これは私のものだ」とか「これはこういうおもちゃなんだ」と正確に伝えたいと思うはずです。
不動産も同じように、それがどんな土地で、どんな建物なのかを、誰が見ても正確にわかるようにしておく必要があるのです。そのための、いわば不動産の「プロフィール帳」や「健康診断書」のような役割を果たすのが「表示登記」だとイメージしてみてください。
表示登記。それは不動産の「自己紹介」です
表示登記は、具体的に不動産のどのような情報を記録しているのでしょうか。それは、まるで不動産が自己紹介をするように、その基本的な情報を明らかにしているのです。
表示登記に記録される主な情報(例)
対象 | 主な記録内容 | イメージ |
---|---|---|
土地 | どこにあるか(所在)、番号(地番)、主な使い道(地目、例えば宅地や畑など)、広さ(地積) | 「この土地は、〇〇町の△番地にあって、お家を建てるための土地で、広さは□□平方メートルです」という自己紹介 |
建物 | どこにあるか(所在)、お家の番号(家屋番号)、建物の種類(例、居宅や店舗)、どんな材料や構造か(構造、例、木造や鉄筋コンクリート造)、各階の広さ(床面積) | 「この建物は、〇〇町の△番地にあって、人が住むためのお家で、木でできていて2階建て、1階の広さは□□平方メートル、2階の広さは◇◇平方メートルです」という自己紹介 |
これらの情報は、「登記記録」という公的な帳簿の中の「表題部」という場所に記録されます。この「表題部」があるからこそ、私たちはその不動産がどんなものなのかを正確に知ることができるのです。
専門用語のカンタン解説
- 登記記録(とうききろく)。不動産に関する情報が記録された、国が管理する公の帳簿のことです。昔は紙の帳簿でしたが、今はコンピューターでデータとして管理されています。
- 表題部(ひょうだいぶ)。登記記録の中で、不動産の物理的な状況(どこにあって、どんな種類で、どれくらいの広さかなど)が記録される部分です。まさに不動産の「顔」となる情報が書かれています。
- 権利部(けんりぶ)。登記記録の中で、その不動産の持ち主は誰か(所有権)、銀行からお金を借りるために担保に入れているか(抵当権)など、権利に関する情報が記録される部分です。
では、なぜ表示登記はそんなに大切なのでしょうか。
不動産の「自己紹介」である表示登記が、なぜこれほど重要視されるのか、その理由を一緒に見ていきましょう。大きく分けて、主に3つの大切な理由があります。
理由1。安心して不動産の取引をするため
例えば、皆さんがお家を買うときのことを想像してみてください。そのお家が本当に契約書に書かれている通りの広さなのか、どんな材料でできているのか、正確な情報が分からなかったら不安ですよね。
表示登記によって不動産の物理的な状況がはっきりしていると、買う人も売る人も、その不動産がどのようなものかを正確に把握した上で、安心して取引を進めることができます。これは、不動産に関するトラブルを未然に防ぐことにも繋がります。
理由2。大切な権利をしっかりと守るため
表示登記は、その不動産が「確かにここに存在しているものですよ」ということを公的に証明する役割があります。そして、この表示登記があることを前提として、「この不動産の持ち主は誰か」といった権利に関する登記(権利部の登記)が行われます。
つまり、表示登記がきちんとされていなければ、その上に自分の権利を記録することが難しくなってしまう場合があるのです。自分の大切な財産である不動産の権利を守るための、最初の重要なステップと言えるでしょう。
この点について、不動産登記法では、不動産の物理的な状況を公示することで、取引の安全と円滑を図ることを目的としています。
根拠条文(参考)。不動産登記法 第1条(目的)「この法律は、不動産の表示及び不動産に関する権利を公示するための登記に関する制度について定めることにより、国民の権利の保全を図り、もって取引の安全と円滑に資することを目的とする。」
理由3。法律で定められた大切な義務だから
新しく土地ができたり、建物を新築したりした場合、その所有者は、一定期間内に表示登記を申請することが法律で義務付けられています。これを怠ると、罰則が科されることもあります。
例えば、建物を新築した場合、その所有権を取得した日から1ヶ月以内に「建物表題登記」を申請しなければなりません(不動産登記法 第47条第1項)。これは、不動産の状況を常に最新かつ正確な状態に保つために、とても重要なルールなのです。
根拠条文(参考)。不動産登記法 第47条第1項「新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に、表題登記を申請しなければならない。」
また、登記を怠った場合の罰則については、不動産登記法 第164条に規定があります。「第三十六条、第三十七条第一項若しくは第二項、第四十二条、第四十七条第一項(第五十一条第六項において準用する場合を含む。)、第四十九条第二項(同条第一項後段の規定による申請をすべき場合(区分建物である場合を除く。)に限る。)、第五十一条第一項から第四項まで、第五十二条、第五十三条第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)、第五十七条又は第五十八条第六項若しくは第七項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠つたときは、十万円以下の過料に処する。」と定められています。
このように、表示登記は、私たちの不動産に関する安心、権利、そして法律上の義務と深く関わっている、とても大切な制度なのです。
この記事でスッキリ解決。表示登記のさまざまな種類とそのポイント
さて、ここまで表示登記の基本的な役割と重要性についてお話ししてきました。何となくイメージは掴んでいただけたでしょうか。
この先の章では、表示登記には具体的にどのような種類があるのか、どんな時にどの登記が必要になるのか、そしてそれぞれの登記でどんな点に注意すべきなのかといった、より具体的な内容について、一つ一つ分かりやすく解説していきます。
例えば、新しくお家を建てた時にはどんな登記が必要で、いつまでに手続きをしなければならないのか。土地を分けたり、まとめたりする時にはどんな準備がいるのか。そんな疑問にもお答えしていきますので、どうぞ最後までお付き合いくださいね。
まとめ
この章でお話しした大切なこと
表示登記とは | 不動産(土地や建物)の物理的な状況(場所、種類、大きさなど)を公の帳簿である「登記記録」の「表題部」に記録することです。不動産の「プロフィール帳」や「自己紹介」のようなものです。 |
なぜ大切なの |
|
根拠となる法律 | 主に不動産登記法に基づいて定められています。 |
本記事で紹介する法律や条文は、一般的な情報提供を目的としており、具体的な法的助言を行うものではありません。個別の事案については、必ず専門家にご相談ください。
第2章 不動産の誕生を記録。基本の「表題登記」
前の章では、不動産の「表示登記」が、まるでその不動産の「プロフィール帳」や「自己紹介」のようなもので、なぜ大切なのかをお話ししましたね。今回は、その中でも一番最初に登場する、いわば不動産の「出生届」とも言える「表題登記(ひょうだいとうき)」について、詳しく見ていきましょう。
「表題登記」は、これまで登記記録のなかった土地や建物について、初めてその登記記録の「表題部(ひょうだいぶ)」、つまり不動産の基本情報が書かれるページを作る手続きのことです。この手続きがあるからこそ、その土地や建物が「公式に存在するもの」として認められ、様々な取引の対象となることができるのです。
イメージしてみよう。「表題登記」ってどんな感じ?
皆さんが、まだ誰も知らない新しい島を発見したとします。その島に名前を付け、地図に「ここにこんな島がありますよ」と書き込むのが、表題登記のイメージに近いかもしれません。土地や建物も、新しく生まれたり、これまで記録されていなかったものが見つかったりしたときに、まず「ここにこんな土地(建物)があります」と公式に登録する必要があるのです。
表題登記には、大きく分けて「土地表題登記」と「建物表題登記」の2種類があります。それぞれ、どんな時に必要で、どんなことが記録されるのか、一緒に見ていきましょう。
土地が生まれたら、または初めて記録するとき。「土地表題登記」
「土地表題登記(とちひょうだいとうき)」は、一筆(いっぴつ、土地の単位のことです)の土地について、初めて登記記録の表題部を作る登記です。まっさらなキャンバスに初めて絵を描くように、まだ登記記録という公の帳簿に載っていなかった土地に、初めてそのプロフィールを記録する作業と言えるでしょう。
どんな時に「土地表題登記」が必要になるの?
主なケースとしては、次のような場合があります。
ケース | 具体的な例 | 考えてみよう |
---|---|---|
新しく土地ができたとき | 海や湖を埋め立てて新しい陸地ができた場合(埋立地)。 | もともと何もなかった場所に、新しい土地が「誕生」したわけですから、その土地の情報を登録する必要がありますね。 |
今まで登記されていなかった土地を取得したとき | これまで道路や水路として使われていた土地(これらは原則として登記されていません)が、その用途を終えて個人や会社に払い下げられた場合。 | 「公のもの」だった土地が「個人のもの」になるタイミングで、その土地の情報をきちんと登記記録に載せる必要があるのです。 |
「土地表題登記」では何が記録されるの?
土地の「自己紹介」に必要な情報が記録されます。主なものは以下の通りです。
記録される主な情報 | カンタン解説 |
---|---|
所在(しょざい) | その土地がどの市区町村のどの地域にあるかを示します。「東京都千代田区〇〇町」のように表示されます。 |
地番(ちばん) | 一筆ごとの土地に付けられた番号です。人間でいうと「個人番号」のようなもので、土地を特定するための大切な番号です。 |
地目(ちもく) | その土地が主な使い道によって分類されたものです。「宅地(お家を建てるための土地)」「畑」「田」「山林」など、法律で23種類が定められています。 |
地積(ちせき) | その土地の面積のことです。平方メートル単位で記録されます。 |
これらの情報が登記されることで、その土地がどこにあって、どんな種類の土地で、どれくらいの広さなのかが公的に明らかになります。
土地表題登記の大切なルール。申請義務について
新しく造成された土地や、今まで登記されていなかった土地の所有権を取得した人は、その所有権を取得した日から1ヶ月以内に土地表題登記を申請しなければならないと、法律で定められています。
根拠条文(参考)。不動産登記法 第36条「新たに生じた土地又は表題登記がない土地の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に、表題登記を申請しなければならない。」
この期間内に申請を怠ると、10万円以下の過料(かりょう、行政上の罰金のようなもの)に処せられることがありますので注意が必要です(不動産登記法 第164条)。
なぜ1ヶ月以内なの?
不動産の状況は、できるだけ速やかに、そして正確に登記記録に反映されることが大切です。これにより、誰でもその不動産の正しい情報を知ることができ、安心して取引などが行えるようになるからです。もし、新しい土地ができたのにいつまでも登記されなかったら、その土地を巡ってトラブルが起きるかもしれませんよね。そうしたことを防ぐために、早めの申請が義務付けられているのです。
マイホームを建てたら、または未登記の建物を取得したら。「建物表題登記」
次に「建物表題登記(たてものひょうだいとうき)」です。これは、一個(いっこ、建物の単位です)の建物について、初めて登記記録の表題部を作る登記です。皆さんがプラモデルやレゴブロックで立派なお城を完成させたら、そのお城がどんな材料でできていて、どんな形で、どれくらいの大きさなのか、誰が見ても分かるようにプレートを付けて飾りたいですよね。建物表題登記は、まさにその「プレート」を作るようなイメージです。
どんな時に「建物表題登記」が必要になるの?
最も一般的なのは、お家などの建物を新しく建てた(新築した)場合です。その他にも、以下のようなケースがあります。
ケース | 具体的な例 |
---|---|
建物を新築したとき | 一戸建てのマイホームを建てた、アパートやマンションを新しく建設したなど。 |
まだ登記されていない建物を取得したとき | 昔に建てられた建物で、まだ登記されていなかったものを購入したり相続したりした場合。(このようなケースは少ないですが、あり得ます) |
建物の増築などで、登記記録上の建物とは別の独立した建物と認められるものができたとき | 既存の建物に大きな増築をして、それが独立した建物として扱われる場合など。(これは少し専門的な判断が必要です) |
「建物表題登記」では何が記録されるの?
建物の「自己紹介」として、以下のような情報が記録されます。
記録される主な情報 | カンタン解説 |
---|---|
所在(しょざい) | その建物が建っている土地の地番で示されます。「〇〇町△番地」のように表示されます。 |
家屋番号(かおくばんごう) | 一個ごとの建物に付けられた番号です。土地の地番と同じ番号が付けられることが多いですが、同じ土地の上に複数の建物がある場合は枝番号などが付きます。 |
種類(しゅるい) | その建物の主な使い道による分類です。「居宅(人が住む家)」「店舗」「事務所」「工場」「共同住宅(アパートやマンション)」などがあります。 |
構造(こうぞう) | 建物の主たる部分の構成材料、屋根の種類、階数で示されます。例えば「木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建(もくぞうあえんめっきこうはんぶきにかいだて)」のように記録され、これは「木でできていて、屋根はトタンのような金属で、2階建てのお家」という意味です。 |
床面積(ゆかめんせき) | 建物の各階の壁などで囲まれた部分の広さです。平方メートル単位で記録されます。マンションなどの区分建物の場合は、壁の内側で測った面積(内法面積 うちのりめんせき)が記録されます。 |
登記原因及びその日付(とうきげんいんおよびそのひづけ) | 建物が新築された場合は「令和〇年〇月〇日新築」のように、新築年月日が記録されます。 |
所有者の住所・氏名 | その建物の所有者の情報も記録されます。 |
これらの情報に加えて、建物の位置を示す「建物図面(たてものずめん)」や、各階の形や広さを示す「各階平面図(かくかいへいめんず)」という図面も一緒に法務局に提出され、登記記録の一部として保管されます。
建物表題登記の重要なポイント。申請義務と他の登記との関係
土地表題登記と同じように、建物を新築したり、まだ登記されていない建物の所有権を取得したりした人は、その所有権を取得した日から1ヶ月以内に建物表題登記を申請しなければならないと法律で定められています。
根拠条文(参考)。不動産登記法 第47条第1項「新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に、表題登記を申請しなければならない。」
もちろん、この期間内に申請を怠ると、土地の場合と同様に10万円以下の過料に処せられることがあります(不動産登記法 第164条)。
建物表題登記は、他の大切な登記のスタートライン
建物表題登記は、単に建物の情報を記録するだけでなく、その後の重要な登記手続きの前提となる、非常に大切な役割を持っています。具体的には、
- 所有権保存登記(しょゆうけんほぞんとうき)。その建物の最初の所有者は誰であるかを公式に示す登記です。この登記をすることで、自分がその建物の持ち主であることを第三者にも主張できるようになります。
- 抵当権設定登記(ていとうけんせっていのうき)。住宅ローンなどを利用してお家を建てる場合、銀行などの金融機関がその建物を担保にとるための登記です。
これらの「権利に関する登記」は、原則として建物表題登記が完了していなければ行うことができません。つまり、建物表題登記は、お家に関する権利を確定させたり、住宅ローンを組んだりするための、まさにスタートラインとなる登記なのです。
皆さんが新しいお家を建てて、住宅ローンを利用する場合、一般的には、まず土地家屋調査士(とちかおくちょうさし、表示登記の専門家です)が建物表題登記を行い、その後、司法書士(しほうしょし、権利に関する登記の専門家です)が所有権保存登記や抵当権設定登記を行う、という流れで手続きが進められます。それぞれの専門家が連携して、皆さんの大切な財産と権利を守っているのですね。
このように、土地や建物が「誕生」したとき、または初めて公の記録に載せるときに行われる「表題登記」は、その後のすべての登記の基礎となる、非常に重要な手続きです。そして、私たちにはそれをきちんと申請する義務があることを覚えておきましょう。
まとめ
この章でお話しした「表題登記」のポイント
登記の種類 | どんなとき? | 何が記録される?(主なもの) | 申請義務 |
---|---|---|---|
土地表題登記 | 新たに土地が生じたとき(埋立など)。未登記の土地を取得したとき。 | 所在、地番、地目、地積 | 所有権取得日から1ヶ月以内 |
建物表題登記 | 建物を新築したとき。未登記の建物を取得したとき。 | 所在、家屋番号、種類、構造、床面積、所有者の住所氏名、図面(建物図面、各階平面図) | 所有権取得日から1ヶ月以内 |
表題登記の共通の重要ポイント
役割 | 不動産の「出生届」。初めて登記記録の表題部を作成し、不動産の物理的な情報を公に明らかにします。 |
義務違反 | 申請義務を怠ると10万円以下の過料の対象となることがあります(不動産登記法 第164条)。 |
他の登記との関係 | 特に建物表題登記は、所有権保存登記や抵当権設定登記など、権利に関する重要な登記の前提となります。 |
本記事で紹介する法律や条文は、一般的な情報提供を目的としており、具体的な法的助言を行うものではありません。個別の事案については、必ず専門家にご相談ください。
第3章 情報が変わったら更新。「変更登記」と「滅失登記」
前の章では、土地や建物が「誕生」したときに行う「表題登記」についてお話ししましたね。不動産の「出生届」のようなものでした。さて、人間も成長するにつれて身長が変わったり、引っ越しをして住所が変わったりするように、土地や建物も時間が経つにつれてその姿や使われ方が変わることがあります。また、残念ながら建物が壊れてしまうこともあります。
そんなとき、不動産の「プロフィール帳」である登記記録も、現実の状況に合わせて最新の情報に書き換える必要があります。そのために行われるのが「変更登記(へんこうとうき)」と「滅失登記(めっしつとうき)」です。今回は、この2つの大切な登記について一緒に学んでいきましょう。
なぜ登記記録を最新の状態に保つ必要があるの?
皆さんが持っている身分証明書、例えば学生証や運転免許証を想像してみてください。もし引っ越して住所が変わったのに、古い住所のままだったらどうでしょう。大切な連絡が届かなかったり、いざという時に困ったりするかもしれませんよね。
不動産の登記記録も同じです。登記記録に書かれている情報と、実際の土地や建物の状況が違っていると、不動産を売買するときにトラブルになったり、正確な固定資産税が計算できなかったり、様々な問題が起こる可能性があります。だからこそ、変化があったら速やかに登記記録を更新することが大切なのです。
土地や建物の「今」を反映する。「変更登記」
「変更登記」は、登記記録の表題部、つまり不動産の物理的な状況が記録されている部分に書かれた情報と、実際の不動産の状況が合わなくなった場合に、その内容を現在の状況に合わせて更新する手続きです。これも、変更があったときから1ヶ月以内に申請する義務があります。
どんな時に「変更登記」が必要になるの?
土地と建物、それぞれについて見ていきましょう。
土地に関する主な変更登記
土地の使い道が変わったり、測ってみたら面積が違っていたりする場合などに行います。
変更登記の種類 | どんな時に必要?(具体例) | カンタン解説 |
---|---|---|
土地地目変更登記 (とちちもくへんこうとうき) |
畑だった土地を造成して、お家を建てるための宅地にした場合。 山林だった土地を切り開いて駐車場にした場合。 |
土地の主な使い道(地目)が変わったときに、登記記録の地目を現状に合わせます。例えば「畑」から「宅地」へ変更します。 |
土地地積更正登記 (とちちせきこうせいとうき) |
昔の測量技術が未熟だったため、登記記録の面積(地積)と、現在の正確な測量技術で測った面積が異なっていることが判明した場合。 | 登記記録上の土地の面積を、正しい測量結果に基づいて正確な面積に訂正します。「更正(こうせい)」という言葉には、最初から間違っていたものを正す、という意味合いがあります。 |
土地の地目変更や地積更正登記の申請義務については、不動産登記法 第37条に規定があります。「地番、地目又は地積について変更があつたときは、表題部所有者又は所有権の登記名義人は、その変更があつた日から一月以内に、当該事項に関する変更の登記を申請しなければならない。」
建物に関する主な変更登記(建物表題部変更登記)
建物を増築したり、一部を取り壊したり、お家の使い道を変えたりした場合など、建物の物理的な状況に変化があったときに行います。「建物表題部変更登記(たてものひょうだいぶへんこうとうき)」といいます。
変更内容の例 | 具体的な状況 | 登記記録のどこが変わる?(例) |
---|---|---|
増築や一部取壊し | お部屋を一つ増やした。物置として使っていた附属建物を壊した。 | 床面積(広さ)が変わります。 |
種類の変更 | お家として使っていた建物を改装して、お店(店舗)として使うようにした。 | 建物の種類が「居宅」から「店舗」などに変わります。 |
構造の変更 | 木造だったお家を鉄骨造に大規模リフォームした(柱や梁などの主要構造部を変更した場合)。 | 建物の構造が「木造」から「鉄骨造」などに変わります。 |
建物の曳行移転(ひきうつしいってん) | 建物をそのままの形で、同じ敷地内の別の場所や隣の土地に移動させた場合。 | 建物の所在が変わることがあります。 |
附属建物の新築・取壊し | 母屋とは別に、車庫や物置などの附属建物を新しく建てたり、取り壊したりした場合。 | 附属建物の情報が追加されたり、削除されたりします。 |
建物の表題部の変更登記の申請義務については、不動産登記法 第51条に規定があります。「第四十七条第一項(区分建物である建物にあつては、第四十八条第一項)の建物について、その物理的状況(中略)又は種類、構造、床面積若しくは建物の名称に変更があつたときは、表題部所有者又は所有権の登記名義人(共用部分である建物にあつては、所有者)は、その変更があつた日から一月以内に、当該変更の登記を申請しなければならない。」
変更登記を怠るとどうなるの?
土地でも建物でも、これらの変更登記を正当な理由なく1ヶ月以内に申請しないと、10万円以下の過料に処せられることがあります(不動産登記法 第164条)。それだけでなく、登記記録と実際の状況が違うままでは、いざ不動産を売ろうとしたときに買主から正確な情報ではないと指摘されたり、融資を受ける際に銀行から正しい登記にするよう求められたりすることがあります。スムーズな取引のためにも、変更があったら速やかに登記をすることが大切です。
建物がなくなってしまったら。「滅失登記」
次に「滅失登記(めっしつとうき)」です。これは、登記されている建物が、取り壊し、火災、地震や台風などの自然災害によって、物理的に存在しなくなってしまった場合に、その建物の登記記録を閉鎖するための手続きです。いわば、建物の「死亡届」のようなものですね。
大切にしていたおもちゃが壊れてしまって、もう遊べなくなったとします。いつまでも「まだあるよ」と記録しておくわけにはいきませんよね。建物も同じで、なくなってしまったら「もうこの建物はありません」という記録をきちんと残す必要があるのです。この滅失登記も、建物がなくなった日から1ヶ月以内に申請する義務があります。
どんな時に「滅失登記」が必要になるの?
主な原因 | 具体的な状況 |
---|---|
取壊し | 古いお家を解体して、新しいお家を建てる準備をする場合。 |
焼失 | 火事で建物が燃えてしまった場合。 |
倒壊・流失 | 地震で建物が倒れてしまった場合。台風や洪水で建物が流されてしまった場合。 |
建物の滅失登記の申請義務については、不動産登記法 第57条に規定があります。「建物が滅失したときは、表題部所有者又は所有権の登記名義人は、その滅失の日から一月以内に、当該建物の滅失の登記を申請しなければならない。」
要注意。滅失登記をしないと、こんな困ったことが。
建物が実際にはもうないのに滅失登記をしないで放っておくと、いくつかの問題が生じる可能性があります。特に気を付けたいのが「固定資産税」です。
固定資産税とは、毎年1月1日時点で土地や建物などの固定資産を持っている人に課される税金です。市町村(東京23区の場合は都)は、登記記録などの情報をもとに誰にどれくらいの税金を課すかを判断します。
もし、建物を取り壊したのに滅失登記をしないでいると、役所は「まだその建物が存在している」と判断してしまい、実際にはもうない建物に対して固定資産税が課され続けてしまうことがあるのです。これは非常にもったいないですよね。
また、将来その土地に新しい建物を建てようとするときや、土地を売ろうとするときに、古い建物の登記が残っていると手続きがスムーズに進まない原因になることもあります。余計な手間や費用がかからないようにするためにも、建物がなくなったら速やかに滅失登記をすることがとても大切です。
このように、土地や建物に何かしらの変化があったり、建物がなくなったりした場合には、その状況を正しく登記記録に反映させるための手続きが必要です。これらの手続きをきちんと行うことで、不動産に関するトラブルを防ぎ、安心して不動産を管理したり取引したりすることができるのです。
まとめ
この章でお話しした「変更登記」と「滅失登記」のポイント
登記の種類 | どんなとき? | 主な内容・例 | 申請義務 |
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土地の変更登記 | 土地の物理的状況に変化があったとき。 |
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変更時から1ヶ月以内 |
建物の変更登記 (建物表題部変更登記) |
建物の物理的状況に変化があったとき。 |
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変更時から1ヶ月以内 |
建物の滅失登記 | 建物が物理的に存在しなくなったとき。 | 取壊し、焼失、倒壊など。 | 滅失日から1ヶ月以内 |
変更登記・滅失登記の共通の重要ポイント
目的 | 不動産の登記記録を常に最新かつ正確な状態に保ち、実態と一致させることです。 |
申請義務者 | 原則として、その不動産の表題部所有者または所有権の登記名義人です。 |
義務違反 | 正当な理由なく申請を怠ると10万円以下の過料の対象となることがあります(不動産登記法 第164条)。 |
放置するリスク | 取引時のトラブル、融資への影響、滅失登記の場合は不要な固定資産税の支払い継続など。 |
本記事で紹介する法律や条文は、一般的な情報提供を目的としており、具体的な法的助言を行うものではありません。個別の事案については、必ず専門家にご相談ください。
第4章 土地の形をアレンジ。「分筆登記」と「合筆登記」
これまでの章で、不動産の「誕生」にあたる表題登記や、情報が「変化」したときの変更登記、建物が「消滅」したときの滅失登記について見てきましたね。これらは、いわば不動産のプロフィールを正しく記録し、最新の状態に保つための手続きでした。
今回は、少し視点を変えて、土地そのものの「区画」、つまり土地の形や数を変えたい場合に行う登記についてお話しします。それが「分筆登記(ぶんぴつとうき)」と「合筆登記(ごうひつとうき、がっぴつとうき とも言います)」です。これらは、土地をより使いやすくしたり、管理しやすくしたりするために役立つ登記なんですよ。
土地の「区画」を変えるって、どういうこと?
例えば、皆さんが大きな一枚のクッキーを持っているとします。それを兄弟で分けたいと思ったら、クッキーを割って小さくしますよね。逆に、小さな粘土のかたまりをいくつか持っていて、それで大きな作品を作りたいと思ったら、粘土を一つにまとめますね。
土地もこれと似たようなことができるんです。一つの大きな土地を複数に分けたり(分筆)、隣り合った複数の土地を一つにまとめたり(合筆)することで、土地の利用価値を高めたり、管理をしやすくしたりすることができるのです。そのための手続きが、これからお話しする分筆登記と合筆登記です。
土地を分けたいときに。「分筆登記」
「分筆登記」とは、登記記録上「一筆(いっぴつ)」の土地として記録されているものを、二筆(にひつ)以上の土地に文字通り分割して、それぞれを独立した土地として登記する手続きです。
「一筆の土地」というのは、登記所で管理されている土地の単位のことです。一つの土地には一つの地番(土地の番号)が付いています。分筆登記をすると、元の土地の地番を基にして新しい地番が付けられ、それぞれの土地が別々に登記記録を持っことになります。
どんな時に「分筆登記」が必要になるの?
土地を分けたいと思う背景には、様々な理由があります。主なケースを見てみましょう。
ケース | 具体的な状況 | 分筆するメリット(例) |
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土地の一部を売りたいとき | 広い土地を持っているけれど、全部は必要ないため、一部だけを売却したい。 | 売却する部分を分筆して別の土地にすることで、その部分だけをスムーズに取引できます。 |
相続人間で土地を分けたいとき | 親から相続した一つの土地を、複数の相続人で公平に分けたい。 | それぞれの相続人が取得する部分を分筆することで、各人の所有権が明確になります。 |
土地の一部にだけ建物を建てたいとき | 広い土地の一部分に自宅を建て、残りの部分は駐車場や畑として使いたい。あるいは、将来的に別の用途で使いたい。 | 建物を建てる部分とそうでない部分を分けることで、管理や将来の計画がしやすくなります。 |
開発事業などを行うとき | 大きな土地を宅地開発して、複数の区画に分けて販売したい。 | 販売する区画ごとに土地を分筆する必要があります。 |
分筆登記の重要ポイント。測量と境界確認が必須です
分筆登記を行うためには、必ず事前に土地の測量を行い、隣接する土地の所有者さんと境界(土地の境目)を確認し、合意(境界確定といいます)する必要があります。
なぜ測量と境界確認が必要なの?
- 正確な分割のため。どこで土地を分けるのか、分けた後のそれぞれの土地の面積はどれくらいになるのかを正確に把握するためには、専門家である土地家屋調査士による測量が不可欠です。
- 将来のトラブルを防ぐため。土地の境界は、見た目だけでは分かりにくいことが多く、隣接地との間で認識がずれていると、後々大きなトラブルに発展する可能性があります。分筆を機に、改めて隣接地の所有者さんと一緒に境界を確認し、書面(境界確認書や筆界確認書などといいます)で合意を取り交わすことで、将来の安心につながります。
この境界確認は、分筆登記手続きの中でも特に時間と手間がかかることがある部分です。隣接地の所有者さんの協力が必要となるため、日頃からの良好な関係づくりも大切ですね。
測量が完了すると、「地積測量図(ちせきそくりょうず)」という図面が作成され、分筆登記を申請する際に法務局に提出されます。この図面には、分筆後の各土地の形状、寸法、面積などが詳しく記載されます。
分筆登記の申請について
分筆登記は、その土地の所有者が申請します。前章までにお話しした表題登記や変更・滅失登記のように「1ヶ月以内」という厳密な申請義務期間が法律で定められているわけではありません。しかし、土地の一部を売買したり、相続で具体的に分割したりするためには、事実上、分筆登記を完了させておく必要があります。
根拠条文(参考)。不動産登記法 第39条第1項「分筆又は合筆の登記は、表題部所有者又は所有権の登記名義人以外の者は、申請することができない。」(申請権者についての規定です)
土地を一つにまとめたいときに。「合筆登記」
「合筆登記」は、分筆登記とは逆に、隣り合っている二筆以上の土地を、登記記録上一筆の土地に合併する手続きです。バラバラだったパズルのピースを組み合わせて一つの大きな絵にするように、複数の土地を一つにまとめるイメージですね。
どんな時に「合筆登記」が必要になるの?
土地をまとめたいと考える主な理由には、以下のようなものがあります。
ケース | 具体的な状況 | 合筆するメリット(例) |
---|---|---|
土地の管理を簡単にしたいとき | 細かく分かれた複数の土地を所有しているが、まとめて管理したい。 | 登記記録が一筆になるため、固定資産税の通知なども一つにまとまり、管理がしやすくなります。 |
一体として利用したいとき | 隣り合った複数の小さな土地を合わせて、一つの大きな土地として家を建てたり、事業を行ったりしたい。 | 土地の利用計画が立てやすくなり、土地の評価も変わることがあります。 |
土地の形状を整えたいとき | 不整形な複数の土地を合わせて、より使いやすい形の土地にしたい。 | 建築制限などが緩和される場合もあります(ただし、合筆だけでは解決しないこともあります)。 |
合筆登記ができるための条件。何でもまとめられるわけではありません
合筆登記は、どんな土地でも自由にできるわけではなく、いくつかの条件を満たしている必要があります。主な条件は以下の通りです。これらの条件を一つでも満たしていないと、原則として合筆することはできません。
条件 | カンタン解説 |
---|---|
隣接していること | 合筆しようとする土地同士が、互いに接している必要があります。間に他の土地や道路、水路などがある場合は合筆できません。 |
所有者が同じであること | 合筆しようとする全ての土地の登記記録上の所有者が、完全に同じである必要があります。共有の場合は、共有者のメンバーとそれぞれの持分も同じでなければなりません。 |
地目が同じであること | 合筆しようとする全ての土地の地目が同じである必要があります。例えば、「宅地」と「畑」をそのまま合筆することはできません。地目を揃えるために、先に地目変更登記が必要になる場合があります。 |
所在する市区町村、大字、字、地番区域が同じであること | 合筆する土地は、同じ行政区画内にある必要があります。 |
権利関係に問題がないこと | 所有権の登記があり、かつ、所有権の登記以外の権利に関する登記(例えば、抵当権や地上権など)がないこと。または、権利に関する登記があっても、それが合筆する全ての土地について内容が同じであるなど、特定の条件を満たす必要があります。この部分は非常に専門的で複雑なので、詳しくは専門家にご相談ください。 |
これらの条件は、合筆によって登記記録が複雑になったり、権利関係があいまいになったりするのを防ぐために定められています。
合筆の登記の制限については、不動産登記法 第41条に詳しく規定されています。例えば、「次に掲げる合筆の登記は、することができない。」として、上記のような条件が列挙されています。
合筆登記の申請について
合筆登記も分筆登記と同様に、その土地の所有者が申請します。また、厳密な申請義務期間はありませんが、土地の利用計画や管理の効率化のために必要と判断されたときに行われます。
土地を分けたりまとめたりする分筆登記や合筆登記は、土地の価値や利用方法に大きく関わる手続きです。ご自身の土地について何か計画がある場合は、これらの登記が関係してくるかもしれませんね。
まとめ
この章でお話しした「分筆登記」と「合筆登記」のポイント
登記の種類 | どんな登記? | どんな時に必要?(例) | 重要なポイント・条件 |
---|---|---|---|
分筆登記 (土地を分ける) |
一筆の土地を二筆以上の土地に分割する登記。 | 土地の一部売却、相続時の分割、一部に建物を建築する場合など。 |
|
合筆登記 (土地をまとめる) |
隣接する二筆以上の土地を一筆の土地に合併する登記。 | 土地管理の簡素化、一体利用、土地形状の整形など。 |
|
分筆・合筆登記の共通のポイント
申請者 | 原則として、その土地の表題部所有者または所有権の登記名義人です。 |
申請義務期間 | 法律で定められた厳密な申請義務期間はありませんが、売買や相続などの目的を達成するために事実上必要となる場合があります。 |
専門家への相談 | 測量や境界確定、合筆の可否判断など、専門的な知識が必要となるため、土地家屋調査士に相談することが一般的です。 |
本記事で紹介する法律や条文は、一般的な情報提供を目的としており、具体的な法的助言を行うものではありません。個別の事案については、必ず専門家にご相談ください。
第5章 こんなケースも。その他の表示登記の種類
これまでの章で、不動産の「誕生」から「変化」、そして土地の「区画整理」といった、比較的よく見られる表示登記についてお話ししてきましたね。私たちの身の回りにある不動産は、実はもっと多様な姿をしていますし、それに合わせて登記の仕組みも細やかに用意されています。
この章では、特に建物に関して、もう少し特殊なケースで必要となる表示登記の種類をいくつかご紹介します。「こんな登記もあるんだな」と知っておくと、不動産に関する知識の幅がぐっと広がりますよ。もしかしたら、皆さんの周りの建物にも、これからお話しする登記が関係しているかもしれません。
なぜ色々な種類の登記があるの?
不動産の利用の仕方や建物の形は、本当にさまざまです。例えば、一つの建物に見えても、中で複数の独立したお店が営業していたり、大きなマンションのようにたくさんの人が別々に住んでいたりしますよね。また、複数の建物が特別な関係で結びついて利用されることもあります。
表示登記の制度は、こうした複雑な不動産の実態をできるだけ正確に、そして分かりやすく登記記録に反映させるために、色々な種類の登記を用意しているのです。それによって、それぞれの不動産の権利関係が明確になり、安全な取引ができるように支えています。
建物の「分け方」「まとめ方」いろいろ
ここでは、建物の登記上の扱いを分けたり、まとめたりする登記を見ていきましょう。物理的な工事を伴う場合もあれば、登記上の操作が主になる場合もあります。
建物分割登記(たてものぶんかつとうき)
どんな登記?
登記記録上、一個の建物として登記されているものを、物理的な構造を変えることなく、登記の上だけで二個以上の建物に分割する登記です。分筆登記の建物版のようなイメージですが、土地の分筆とは異なり、建物分割では物理的に壁を設けたりする必要は必ずしもありません。
どんな時に使うの?(例)
例えば、一つの大きな建物内に、独立して利用できる二つの店舗部分があるとします。これまでは建物全体を一個として登記していましたが、それぞれの店舗を別々に賃貸したり、将来的に別々に売却したりすることを考えて、登記上も二つの独立した建物として分けておきたい、という場合に利用されることがあります。
また、二世帯住宅で、各世帯が利用する部分を登記上分けて管理したい、といったケースも考えられます。
ポイント
分割後のそれぞれの建物が、構造上・利用上の独立性を持っていると認められる必要があります。
根拠条文(参考)。不動産登記法 第52条第1項「表題部所有者又は所有権の登記名義人は、その建物が区分建物以外の建物で二以上の部分から構成されるものである場合において、当該建物を構成する部分をそれぞれ別の一個の建物とする登記を申請することができる。」(要件を満たせば申請できる、という趣旨です)
建物合併登記(たてものがっぺいとうき)
どんな登記?
登記記録上、複数の建物として登記されているものを、登記の上で一個の建物(主たる建物とその附属建物の関係)としてまとめる登記です。土地の合筆登記に似ていますが、建物の場合、物理的にくっついていなくても、同じ敷地内にあって主従の関係にあれば合併できることがあります。
どんな時に使うの?(例)
例えば、母屋(主たる建物)と、同じ敷地内にある物置や車庫(附属建物)が、それぞれ別々に登記されていたとします。これらを一つのグループとして、母屋を「主たる建物」、物置や車庫をその「附属建物」として登記記録上まとめたい、という場合に利用されます。
ポイント
合併しようとする建物が同じ所有者であり、同じ敷地内にあること、そして主たる建物と附属建物の関係にあることなどが条件となります。
根拠条文(参考)。不動産登記法 第53条第1項「表題部所有者又は所有権の登記名義人は、その建物と附属建物とがそれぞれ別の一個の建物として登記されている場合において、これらを一個の建物とする登記を申請することができる。」
建物合体登記(たてものがったいとうき)
どんな登記?
登記記録上、別々の建物として登記されていた複数の建物が、増築や改築などによって物理的に結合し、構造上一つの建物になった場合に、それらを一個の建物としてまとめる登記です。これは、登記上の操作だけでなく、実際の建物の物理的な変化が伴います。
どんな時に使うの?(例)
隣り合って建っていた二つの店舗がありました。ある時、間の壁を取り壊し、内部を一体化して一つの大きなお店としてリニューアルオープンしました。この場合、物理的に二つの建物が一つの建物になったので、建物合体登記を行い、登記記録も一つの建物としてまとめます。
ポイント
合体後の建物についての表題登記を新たに行い、合体前の各建物の表題部の登記は抹消されることになります。合体によって建物の物理的状況が大きく変わるため、その変更があった日から1ヶ月以内に申請する義務があります。
根拠条文(参考)。不動産登記法 第54条第1項「数個の建物が合体して一個の建物となつたことにより表題登記がない建物が生じた場合において、当該建物の所有者が当該合体前の建物の表題部所有者若しくは所有権の登記名義人と同一であるときは、その者は、当該合体の日から一月以内に、当該合体後の建物についての表題登記及び当該合体前の建物についての表題部の登記の抹消を申請しなければならない。」
マンションなどでおなじみ。「建物区分登記」
最後に、私たちの生活に特に関わりの深い「建物区分登記(たてものくぶんとうき)」について見ていきましょう。これは、マンションやオフィスビルなど、一つの建物の中に独立して利用できる部屋がたくさんある場合に、とても重要な登記です。
建物区分登記とは?
どんな登記?
一棟の建物(例えばマンション全体)を、構造上・利用上独立した複数の部分(例えばマンションの各住戸)に分け、それぞれの部分を独立して所有権の対象(売買したり、抵当権を設定したりできる)とするための登記です。
皆さんがマンションの一室を購入できるのは、この建物区分登記によって、その一室が「専有部分(せんゆうぶぶん)」として独立した不動産として扱われているからです。
専有部分と共用部分
区分建物には、大きく分けて二つの部分があります。
- 専有部分。マンションの各住戸や、オフィスビルの各テナント区画のように、独立して所有・利用できる部分です。ここが個々の所有権の対象となります。
- 共用部分(きょうようぶぶん)。専有部分以外の、建物の部分です。例えば、廊下、階段、エレベーター、エントランスホールなどがこれにあたります。また、規約によって専有部分とされていたものを共用部分とすることもできます(例:集会室や管理人室など)。共用部分は、原則として区分所有者全員の共有となります。
建物区分登記では、まず建物全体(一棟の建物)の表題登記を行い、その上で各専有部分についてもそれぞれの表題登記が行われます。
どんな時に使うの?
まさに、分譲マンションを新しく建設したときや、既存の建物を改修して区分所有の対象とするオフィスビルや店舗にする場合などに、この登記が行われます。
この登記をすることで、例えばマンションの301号室だけをAさんが所有し、505号室だけをBさんが所有し、それぞれが自由に売ったり貸したり、あるいは住宅ローンの担保に入れたりすることができるようになるのです。
ポイント
建物区分登記は、その建物が「区分建物」としての要件(構造上の独立性と利用上の独立性を備えた複数の部分から構成されていること)を満たしている必要があります。
新しく区分建物を建築した場合、その所有者は、所有権を取得した日から1ヶ月以内に、一括して建物表題登記(区分建物の場合の特別な形式)を申請しなければなりません。
根拠条文(参考)。不動産登記法 第48条第1項「区分建物が新築された場合又は表題登記がない区分建物の所有権を取得した場合において、当該区分建物の所有者が第四十七条第一項の申請をするときは、当該区分建物が属する一棟の建物の他の区分建物の所有者(中略)に代わって、当該他の区分建物についての表題登記を申請することができる。」(一括申請の原則などを示しています)
このように、建物の利用形態や所有のあり方は多種多様です。表示登記の制度も、そうした実態に合わせてきめ細かく対応できるように作られているのですね。
まとめ
この章でお話しした「その他の表示登記」のポイント
登記の種類 | どんな登記? | どんな時に使うの?(例) | 主なポイント・申請義務 |
---|---|---|---|
建物分割登記 | 登記上1個の建物を物理的変更なく複数に分ける。 | 1つの建物内の複数店舗を別々に管理・処分したい場合など。 | 分割後の各建物が独立性を持つこと。所有者の任意申請が基本。 |
建物合併登記 | 登記上複数の建物を1個の主たる建物と附属建物の関係にまとめる。 | 母屋と離れを登記上ひとまとめにしたい場合など。 | 同じ所有者、同じ敷地内、主従関係などが条件。所有者の任意申請が基本。 |
建物合体登記 | 物理的に結合して1個になった複数の建物を登記上も1個にまとめる。 | 隣接店舗が壁を撤去し1店舗になった場合など。 | 物理的変化が伴う。合体日から1ヶ月以内の申請義務あり。 |
建物区分登記 | 一棟の建物を独立所有可能な複数の専有部分に分ける。 | マンションや区分オフィスビルの新築時など。 | 各専有部分が構造上・利用上独立していること。新築時等は所有権取得日から1ヶ月以内の申請義務あり(一括申請)。 |
本記事で紹介する法律や条文は、一般的な情報提供を目的としており、具体的な法的助言を行うものではありません。個別の事案については、必ず専門家にご相談ください。
第6章 ひと目で確認。主な表示登記の重要ポイントまとめ
さて、ここまで様々な種類の表示登記について、その役割や手続きの概要を見てきました。土地や建物の「誕生」から「変化」、そして「区画の整理」や「特殊なケース」まで、たくさんの情報がありましたね。
この章では、これまで学んできたことの中から、特に皆さんに覚えておいていただきたい重要なポイントをギュッと凝縮して、おさらいしていきたいと思います。まるでテスト前に大切な項目をまとめた「虎の巻」のように、この章を活用して表示登記の知識を整理してみてください。
なぜ「まとめ」が大切なの?
不動産の登記は、私たちの財産を守り、安全な取引を行うためにとても大切な制度です。そして、その中には法律で定められた「義務」も含まれています。特に「いつまでに何をしなければならないのか」という点は、うっかり忘れてしまうと困ったことになる可能性もあります。
この章で主な表示登記のポイントを一覧で確認することで、いざという時に「ああ、あの登記が必要だったな」「期限はいつまでだったかな」と思い出す手助けになるはずです。それでは、早速見ていきましょう。
主な表示登記の種類と重要ポイント一覧
ここでは、これまでの章で登場した主な表示登記について、どんな時に必要になるのか、誰が申請する義務があるのか、そして特に注意が必要な申請期限などを、分かりやすく表にまとめてみました。
表示登記かんたん早見表
登記の種類 | 主な発生ケース(どんなとき?) | 主な申請義務者 | 申請期限 | 関連する主な法律の条文(申請義務/罰則) |
---|---|---|---|---|
土地表題登記 (とちひょうだいとうき) |
新しく土地ができたとき(埋立地など)。 今まで登記されていなかった土地(公道や水路の払下げなど)の所有権を取得したとき。 |
その土地の所有権を取得した人 | 所有権を取得した日から1ヶ月以内 | 不動産登記法 第36条(申請義務) 不動産登記法 第164条(罰則) |
建物表題登記 (たてものひょうだいとうき) |
建物を新築したとき。 今まで登記されていなかった建物の所有権を取得したとき。 |
その建物の所有権を取得した人 | 所有権を取得した日から1ヶ月以内 | 不動産登記法 第47条(申請義務) 不動産登記法 第164条(罰則) |
土地地目変更登記 (とちちもくへんこうとうき) |
土地の主な使い道(地目)が変わったとき(例。畑を宅地に変更)。 | その土地の表題部所有者または所有権の登記名義人 | 変更があった日から1ヶ月以内 | 不動産登記法 第37条(申請義務) 不動産登記法 第164条(罰則) |
建物表題部変更登記 (たてものひょうだいぶへんこうとうき) |
建物の物理的な状況(種類、構造、床面積など)が変わったとき(例。増築、一部取壊し、用途変更)。 | その建物の表題部所有者または所有権の登記名義人 | 変更があった日から1ヶ月以内 | 不動産登記法 第51条(申請義務) 不動産登記法 第164条(罰則) |
建物滅失登記 (たてものめっしつとうき) |
建物が取り壊し、火災、天災などで物理的に存在しなくなったとき。 | その建物の表題部所有者または所有権の登記名義人 | 建物が滅失した日から1ヶ月以内 | 不動産登記法 第57条(申請義務) 不動産登記法 第164条(罰則) |
土地分筆登記 (とちぶんぴつとうき) |
一筆の土地を二筆以上の土地に分割したいとき(例。土地の一部売却、相続時の分割)。 | その土地の表題部所有者または所有権の登記名義人(共有の場合は共有者全員) | 厳密な期限はなし (ただし、売買や相続などの目的達成のために事実上必要となる場合あり) |
不動産登記法 第39条(申請権者など) |
土地合筆登記 (とちごうひつとうき) |
隣接する二筆以上の土地を一筆の土地に合併したいとき。 | その土地の表題部所有者または所有権の登記名義人(共有の場合は共有者全員) | 厳密な期限はなし (ただし、土地管理の効率化などのために行われる) ※合筆には一定の条件あり |
不動産登記法 第39条(申請権者など)、第41条(合筆の制限) |
上の表は主な表示登記をまとめたもので、これ以外にも第5章でご紹介したような特殊なケースの登記(建物分割・合併・合体・区分登記など)もあります。それらの登記にも、状況に応じて申請義務や期限が定められています。
特に注意。申請期限と義務違反について
上の表を見ていただくと、多くの表示登記には「1ヶ月以内」という申請期限が定められていることにお気づきになると思います。この「1ヶ月」という期間は、不動産の状況が変わったら、できるだけ速やかに登記記録を現状と一致させるために設けられています。
申請期限の起算点(いつから1ヶ月?)をしっかり確認
「1ヶ月以内」といっても、いつから数え始めるのか(これを「起算点」といいます)が登記の種類によって異なりますので、注意が必要です。
登記の種類 | 申請期限の起算点 |
---|---|
土地表題登記、建物表題登記 | その不動産の所有権を取得した日から |
土地地目変更登記、建物表題部変更登記 | その変更があった日から |
建物滅失登記 | 建物が滅失した日から |
例えば、4月15日に建物を新築し所有権を取得した場合、建物表題登記の申請期限は原則として5月14日までとなります(月の末日や休日の扱いなど、細かいルールはありますが、基本的な考え方です)。
義務を怠るとどうなるの?「過料」というペナルティ
これまでも何度か触れてきましたが、法律で定められた申請義務がある表示登記を、正当な理由がないのに怠った場合、10万円以下の過料(かりょう)に処せられることがあります。
不動産登記法 第164条「第三十六条、第三十七条第一項若しくは第二項、第四十二条、第四十七条第一項(第五十一条第六項において準用する場合を含む。)、第四十九条第二項(同条第一項後段の規定による申請をすべき場合(区分建物である場合を除く。)に限る。)、第五十一条第一項から第四項まで、第五十二条、第五十三条第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)、第五十七条又は第五十八条第六項若しくは第七項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠つたときは、十万円以下の過料に処する。」
「過料」とは、法律違反に対する行政上の制裁金のようなもので、罰金とは少し性質が異なりますが、金銭的な負担が生じることに変わりはありません。もちろん、過料を払えば済むというわけではなく、必要な登記はきちんと行う必要があります。
それ以上に大切なのは、登記を怠ることで、将来の不動産取引で不利になったり、予期せぬトラブルに巻き込まれたりするリスクがあるということです。例えば、滅失登記を忘れていると、存在しない建物に固定資産税が課され続けるといったことも起こり得ます。
この章でまとめた情報を参考にしていただき、ご自身の不動産に関わる表示登記について、適切な時期に適切な手続きを行うことの重要性を再認識していただければ幸いです。
まとめ
この章でおさらいした重要ポイント
表示登記の基本 | 不動産の物理的な状況を公示するもので、種類によって申請義務者や期限が定められています。 |
主な申請期限 | 土地・建物の表題登記、変更登記、滅失登記の多くは、原因発生から「1ヶ月以内」です。 |
申請義務者 | 原則として、その不動産の表題部所有者または所有権の登記名義人です。 |
義務違反の場合 | 正当な理由なく申請を怠ると、10万円以下の過料に処せられる可能性があります(不動産登記法第164条)。 |
期限のない登記も注意 | 分筆登記や合筆登記には厳密な申請期限はありませんが、売買や相続、土地の有効活用などの目的を達成するために事実上必要となる場合があります。 |
本記事で紹介する法律や条文は、一般的な情報提供を目的としており、具体的な法的助言を行うものではありません。個別の事案については、必ず専門家にご相談ください。
第7章 知っておくべき。表示登記の手続きと専門家の役割
前の章では、主な表示登記の重要なポイントを一覧で確認しましたね。申請期限や義務があることなど、大切なルールがたくさんありました。さて、「じゃあ、実際にこれらの登記手続きはどうやって進めたらいいの?」「自分でもできるものなの?」そんな疑問が浮かんできた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この章では、表示登記の実際の手続きの流れや、その際に頼りになる専門家について、そして具体的なケースを通して登記がどのように連携していくのかをお話しします。これを読めば、表示登記に関する「どうすればいいの?」が少しスッキリするはずです。
表示登記の手続きって、実は奥が深いんです
皆さんが学校で図工の時間に何かを作るとき、設計図をしっかり描いて、寸法を間違えないように測って、丁寧に作業しますよね。もし、少しでもズレてしまうと、うまく形にならなかったり、後で困ったことになったりします。
不動産の表示登記も、これと似ているようで、実はもっとずっと専門的な知識と技術が必要です。土地の正確な測量、複雑な法律に基づいた書類の作成、そして現地の状況を正しく把握するための調査など、どれも間違いが許されない精密な作業なのです。もし、登記の内容に誤りがあると、後で修正するのに大変な手間と費用がかかったり、最悪の場合、不動産取引でトラブルの原因になったりすることもあります。
表示登記の専門家。「土地家屋調査士」の役割
「なんだか難しそうだな…」と感じた方もご安心ください。表示登記には、私たちの強い味方となる専門家がいます。それが「土地家屋調査士(とちかおくちょうさし)」です。
土地家屋調査士ってどんな専門家?
土地家屋調査士は、不動産の表示に関する登記手続きのプロフェッショナルです。主な仕事は、
- 不動産(土地や建物)の物理的な状況を正確に把握するための調査や測量を行うこと。
- その結果に基づいて、法務局に提出するための登記申請書類や図面を作成すること。
- そして、私たちに代わって登記申請の手続きを代理することです。
土地家屋調査士は、国家資格を持った専門家であり、その使命は「不動産の表示に関する登記及び土地の筆界を明らかにする業務の専門家として、不動産に関する権利の明確化に寄与し、もつて国民生活の安定と向上に資すること」と法律で定められています。
根拠条文(参考)。土地家屋調査士法 第1条「土地家屋調査士は、不動産の表示に関する登記及び土地の筆界(境界のことです)を明らかにする業務の専門家として、不動産に関する権利の明確化に寄与し、もつて国民生活の安定と向上に資することを使命とする。」
つまり、土地家屋調査士は、私たちの不動産の「カタチ」や「大きさ」などを正確に記録することで、私たちの財産権を守り、不動産取引がスムーズに行われるように支えてくれている、とても重要な存在なのです。
土地家屋調査士の主な業務(不動産登記法より)
土地家屋調査士法第3条では、土地家屋調査士が行うことができる業務が定められています。表示登記に関する業務としては、主に以下のようなものがあります。
依頼を受けて、不動産の表示に関する登記について必要な土地又は家屋に関する調査又は測量をすること。 |
不動産の表示に関する登記の申請手続について代理すること。 |
不動産の表示に関する登記に関する審査請求(登記官の処分に不服がある場合の不服申立て)の手続について代理すること。 |
筆界特定の手続(土地の境界を明らかにするための法務局の手続き)について代理すること。 |
上記に関連する相談に応じること。 |
どんな時に土地家屋調査士に依頼するの?
表示登記は、法律上は自分で行うこと(本人申請)も可能です。しかし、先ほどお話ししたように、専門的な知識や技術、そして時間と手間がかかることが多いのが実情です。
以下のような場合は、土地家屋調査士に依頼することを検討するのが一般的です。
ケース | 理由・メリット |
---|---|
測量が必要な登記 (例:土地表題登記、土地地積更正登記、土地分筆登記、建物表題登記など) |
正確な測量は専門的な技術と高価な機材が必要です。土地家屋調査士はこれらを備えています。 |
図面の作成が必要な登記 (例:建物表題登記、建物表題部変更登記、土地分筆登記など) |
登記申請には、法律で定められた規格に合った正確な図面(地積測量図、建物図面、各階平面図など)が必要です。 |
境界の確認や確定が必要な登記 (例:土地分筆登記、土地地積更正登記など) |
隣接地の所有者との間で境界について協議し、合意を得る作業は、専門的な知識と経験が求められます。 |
手続きが複雑な登記や、権利関係が絡む場合 | 法律の解釈や過去の判例などを理解した上で、適切に手続きを進める必要があります。 |
時間がない、または手続きに自信がない場合 | 専門家に任せることで、迅速かつ正確に手続きを完了でき、安心感も得られます。 |
土地家屋調査士と司法書士の違いって?
不動産の登記には、土地家屋調査士のほかにも「司法書士(しほうしょし)」という専門家が関わることがあります。この二つの専門家は、それぞれ担当する登記の分野が異なります。
- 土地家屋調査士。不動産の「物理的な状況」を記録する「表示に関する登記」の専門家です。(この記事で主にお話ししている登記です)
- 司法書士。不動産の「権利関係」(誰が所有者か、誰が担保を持っているかなど)を記録する「権利に関する登記」の専門家です。(例:所有権保存登記、所有権移転登記、抵当権設定登記など)
例えば、お家を新築した場合は、まず土地家屋調査士が「建物表題登記」を行い、その後、司法書士が「所有権保存登記」や「抵当権設定登記」を行う、というように連携して手続きが進められます。車の両輪のような関係ですね。
自分で登記手続きはできるの?(本人申請について)
法律上は、不動産の所有者自身が表示登記を申請すること(本人申請)も認められています。もし自分で手続きをしてみようと考える場合は、以下の点を理解しておくことが大切です。
本人申請のメリットとデメリット
メリット | デメリット | |
---|---|---|
本人申請 | 専門家への依頼費用を節約できる可能性がある。 |
|
もし本人申請に挑戦するなら
- 法務局の登記相談を利用する。多くの法務局では、登記手続きに関する無料相談窓口を設けています。事前に予約が必要な場合が多いので、お近くの法務局に確認してみましょう。ただし、具体的な書類の作成代行や詳細な個別指導までしてもらえるわけではありません。
- 関連書籍やインターネットで情報を集める。登記申請に必要な書類の様式や記載例、手続きの流れなどを解説した情報があります。ただし、情報の正確性や最新性には注意が必要です。
- 時間に余裕を持って取り組む。書類の準備から申請、完了までには相応の時間がかかることを覚悟しておきましょう。
特に測量や複雑な図面作成が必要な登記(土地の分筆や建物の新築など)は、本人申請のハードルが非常に高いと言えます。費用だけでなく、時間、労力、そして何よりも「正確な登記」を実現するという観点から、どの方法が最適か慎重に検討することが大切です。多くの場合、専門家である土地家屋調査士に依頼する方が、結果的にスムーズで安心な場合が多いでしょう。
ケーススタディ。新築住宅購入時の登記の流れ
では、実際に不動産に関する出来事があったとき、表示登記や権利の登記がどのように連携して行われるのか、新築の住宅を購入し、住宅ローンを利用する場合を例に見てみましょう。このケースでは、主に建物表題登記(表示登記)、所有権保存登記(権利の登記)、抵当権設定登記(権利の登記)という3つの登記が重要になります。
新築住宅購入時の主な登記ステップ
(登場人物。あなた(買主)、ハウスメーカー(売主)、銀行(融資機関)、土地家屋調査士、司法書士)
ステップ | 主な登記 | 誰が関わる?(主に) | 何をするの?(概要) |
---|---|---|---|
ステップ1。建物完成 | ー | あなた、ハウスメーカー | お家が完成し、ハウスメーカーからあなたへ引き渡しの準備が整います。 |
ステップ2。建物の「出生届」 | 建物表題登記 (表示登記) |
土地家屋調査士 (あなたが依頼、またはハウスメーカーが手配) |
完成した建物について、その所在、種類、構造、床面積などを調査・測量し、法務局に登記します。この登記があって初めて、建物が法的に存在するものとして認められます。(申請期限。所有権取得日から1ヶ月以内) |
ステップ3。あなたの「所有宣言」 | 所有権保存登記 (権利の登記) |
司法書士 (あなたが依頼) |
建物表題登記が完了した建物について、あなたが最初の所有者であることを法務局に登記します。これにより、あなたがその建物の正式な持ち主であることが公示されます。 |
ステップ4。住宅ローンの「担保設定」 | 抵当権設定登記 (権利の登記) |
司法書士 (銀行の指定またはあなたが依頼) |
住宅ローンを借りる銀行が、万が一返済が滞った場合に備えて、購入した土地と建物に担保権(抵当権)を設定することを法務局に登記します。この登記があることで、銀行は安心して融資を実行できます。 |
ステップ5。融資実行と残金決済 | ー | あなた、銀行、ハウスメーカー | 抵当権設定登記の見込みがついた段階で、銀行から融資金があなたに振り込まれ、そのお金でハウスメーカーへ建物の残金を支払います。 |
この一連の流れを見ていただくと、まず「建物表題登記」という表示登記が行われ、その登記記録を基礎として「所有権保存登記」や「抵当権設定登記」といった権利に関する登記が行われていることが分かりますね。表示登記は、まさに全ての登記の土台となる重要な役割を担っているのです。
実際には、これらの手続きは同時並行的に準備が進められ、特に融資が絡む場合は、金融機関、不動産業者、土地家屋調査士、司法書士が連携を取りながら、スムーズに登記が完了するように進められます。
このように、表示登記の手続きは専門的な知識を要することが多く、多くの場合、土地家屋調査士という頼れる専門家がその役割を担っています。ご自身の不動産に何か変化があったり、これから不動産を取得したりする際には、まずはどんな登記が必要になるのかを確認し、必要に応じて早めに専門家に相談することをお勧めします。
まとめ
この章でお話しした「手続きと専門家」のポイント
表示登記の専門性 | 正確な測量、図面作成、法律知識など高度な専門性が求められ、誤りはトラブルの原因になります。 |
土地家屋調査士の役割 | 不動産の調査・測量、登記申請書類・図面の作成、登記申請の代理を行う表示登記の専門家です(国家資格)。 |
本人申請の可能性 | 法律上は可能ですが、時間、手間、専門知識が必要で、測量等が伴う場合は特に困難です。専門家への依頼が推奨される場合が多いです。 |
司法書士との違い | 土地家屋調査士は「表示に関する登記」、司法書士は「権利に関する登記」を担当し、連携して業務を行います。 |
登記の連携(新築住宅の例) | 建物表題登記(土地家屋調査士)が完了して初めて、所有権保存登記や抵当権設定登記(司法書士)が可能になります。表示登記が全ての土台です。 |
本記事で紹介する法律や条文、手続きの流れは、一般的な情報提供を目的としており、具体的な法的助言を行うものではありません。個別の事案については、必ず専門家にご相談ください。
第8章 おわりに。表示登記を理解して、スムーズな不動産管理を。
表示登記をめぐる長い旅も、いよいよ終点です。第1章から始まり、表示登記の基本的な役割、様々な種類、そして実際の手続きや専門家の存在まで、一緒に探検してきました。たくさんの情報に触れて、「不動産の登記って、奥が深いんだな」と感じていただけたのではないでしょうか。
この最後の章では、これまで学んできたことを胸に、表示登記の知識が私たちのこれからの生活にどのように役立ち、そして私たちが何を心に留めておくべきか、一緒に考えてみたいと思います。
旅の終わりに、もう一度大切な宝物を確かめましょう
皆さんが、もし宝探しの冒険に出かけたら、最後に見つけた宝物をもう一度じっくりと眺めて、その価値を確かめますよね。このブログ記事を通じて皆さんが得た「表示登記の知識」も、まさにそのような価値ある宝物です。
それは、ただの難しい法律の話ではなく、私たちの暮らしと財産を支える、とても実用的な知恵なのです。この知識をしっかりと自分のものにしていただくことが、この長いお話の一番のゴールです。
表示登記の重要性。未来の安心への羅針盤
このブログを通じて、繰り返しお伝えしてきたのは、表示登記の「重要性」です。それは、私たちの不動産に関する様々な場面で、まるで信頼できる羅針盤のように、正しい道を示してくれるからです。
不動産の「顔」であり「履歴書」
表示登記は、土地や建物の物理的な状況、つまり「どんな不動産なのか」を公に示す、いわば不動産の「顔」であり「履歴書」です。これが正確に記録されているからこそ、私たちは安心して不動産を見たり、取引したりすることができます。
安全な取引の土台
家を買うとき、土地を売るとき、その不動産の情報が登記記録と一致していなかったら、大きな不安が伴いますよね。表示登記がきちんとされていることは、売る人にとっても買う人にとっても、公正で安全な取引を行うための大前提となるのです。
権利を守るための第一歩
建物表題登記がなければ所有権保存登記ができないように、表示登記は、その不動産に関する権利(例えば所有権や抵当権など)を明確にするための基礎工事のようなものです。この土台がしっかりしていなければ、その上に大切な権利という家を建てることはできません。
社会全体の安心のために
不動産登記法は、その目的を「国民の権利の保全を図り、もつて取引の安全と円滑に資すること」と定めています(不動産登記法 第1条)。私たちがきちんと表示登記を行うことは、自分自身の権利を守るだけでなく、社会全体の不動産取引の秩序を維持し、経済活動の円滑化にも貢献しているのです。
不動産登記法 第1条「この法律は、不動産の表示及び不動産に関する権利を公示するための登記に関する制度について定めることにより、国民の権利の保全を図り、もつて取引の安全と円滑に資することを目的とする。」
あなたの不動産は大丈夫?今日からできること
表示登記の大切さを理解していただいたところで、では具体的に私たちは何を心がければよいのでしょうか。難しく考える必要はありません。今日からできる、ちょっとした心構えをご紹介します。
アクション1。不動産に変化があったら、まずは登記の確認を。
「あれ、うちの土地の使い道が変わったかな?」「家を増築したけど、手続きはしたっけ?」もし、ご自身の不動産に何か物理的な変化があったり、あるいは変化があったかもしれないと感じたりしたら、まずは現在の登記記録がどうなっているかを確認してみる習慣をつけましょう。
登記記録(登記事項証明書)は、法務局で誰でも手数料を払えば取得できますし、オンラインで確認することも可能です。現状を把握することが、適切な対応への第一歩です。
アクション2。早めの相談、早めの対応が、将来のトラブルを防ぐカギ。
もし登記記録と現状が異なっていることに気づいたり、これから不動産に大きな変更(新築、増改築、取壊し、土地の分割など)を加えようとしていたりするなら、「まあ、そのうちでいいか」と先延ばしにせず、できるだけ早く専門家(土地家屋調査士)に相談しましょう。
皆さんが定期的に健康診断を受けて体の状態をチェックし、もし何か異常が見つかれば早めにお医者さんに相談するように、不動産の登記も「早期発見、早期対応」がとても大切です。小さな疑問や手続きの遅れが、将来的に大きな手間や費用、あるいは予期せぬトラブルに繋がることもあります。早めの対応は、未来の自分への最高のプレゼントになるはずです。
アクション3。分からないことは、一人で悩まず専門家へ。
表示登記は専門的な知識が必要です。自分で調べてみてもよく分からないことや、手続きに不安を感じることは、決して恥ずかしいことではありません。そんな時は、どうぞ遠慮なく土地家屋調査士に相談してください。彼らは表示登記のプロフェッショナルとして、きっと皆さんの状況に合わせた最適なアドバイスをしてくれるでしょう。
最後に。この知識が、皆さんの豊かな暮らしの一助となることを願って
この長いブログ記事を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。表示登記という、少し硬いテーマだったかもしれませんが、皆さんの大切な財産である不動産と、より良く付き合っていくための一つの「道しるべ」として、何か少しでもお役に立てたなら幸いです。
不動産は、私たちの生活の基盤であり、時には夢を形にする舞台でもあります。その大切な舞台が、常に正確な情報で守られ、安心して活用できる状態にあること。そのために表示登記制度があり、そして私たち一人ひとりがその制度を理解し、適切に関わっていくことが求められています。
この知識が、皆さんのこれからの不動産との関わりの中で、ふとした瞬間に思い出され、より安心で豊かな暮らしを送るための一助となることを、心から願っています。
本記事で紹介した内容は、一般的な情報提供を目的としており、具体的な法的助言を行うものではありません。個別の事案については、必ず専門家にご相談いただきますようお願いいたします。